森達也の2023年の映画「福田村事件」は、関東大震災の直後千葉県北西部の福田村で起きた行商集団の虐殺事件をテーマにした作品。森は、「A」や「311」といったドキュメンタリー映画で知られる。その彼が、実際に起きた事件を、ドキュメンタリーではなくドラマとして描いたものだ。
まず、事件の概要は次のようなもの。香川県の部落民の集団が、関東を行商して歩き、千葉県の福田村に立ち寄った。それと前後して関東大震災が発生する。震災の混乱のなか、関東各地で流言飛語が起り、朝鮮人の取り締まりを目的として自警団が結成された。朝鮮人が日本人に危害を加えようとしているとの流言飛語に促されてのことだった。興奮した自警団が待ち構えているところに、たまたま行商団が遭遇した。かれらは子どもを含めて15人で構成されていたが、そのうち9人が興奮した自警団メンバーによって虐殺された。朝鮮人と間違えられたためといわれる。
映画は事件の前後の様子を陰惨なタッチで描く。画面は暗く、せりふは舌足らず、といった印象を受ける。森はドキュメンタリー作家であり、ドラマはあまり得意ではないようだ。だが、流言飛語に踊らされて、良識を失っていく人々の意識のありようは、同じ日本人としてわかるように作っている。こういう人たちが、東京や千葉で大勢の朝鮮人を虐殺したわけだ(某都知事はその事実を認めたがらないようだが)。小生の住んでいる船橋市でも、かなりな規模の朝鮮人虐殺が起きた。その虐殺者の子孫がいまだにそこらへんを歩いていると思うと、気味が悪くなることがある。
自警団は、鎌で行商人の頭をぶち割って殺したといわれるが、この映画の中では、体格のいい中年女が行商の男の頭を鎌でぶち割るシーンが出てくる。
福田村における虐殺と並行して、東京でおきた亀戸事件にも触れている。その事件は、亀戸署が日頃対立していた労働組合運動の指導者たち十名を不当逮捕し、ひそかに殺害したというものである。これもまた関東大震災の混乱に便乗して起きた事件だった。
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