黒崎博の2021年の映画「太陽の子」は、大戦末期における日本の原爆製造プロジェクトをテーマにした作品。日本に原爆製造のプロジェクトが存在していたことは、NHKの報道などを通じて知られてはいたが、あまり注目されることはなかった。目標が達成されなかったこととか、理由はいくつかあるだろう。この映画では、京都大学の物理学者たちがウラニウムを原料とした原爆製造に取り組んださまが描かれているが、素人目にもあまりにもずさんな計画に見える。また、原爆製造の仕事とからめて、主人公の若い学者の幼馴染という女性や、主人公の弟などがでてくるが、それらは本筋とはまったくかかわりがなく、また、筋書き上大した役割を演じているわけでもない。そんなわけで、この映画は何を訴えたいのか、はっきりしないところがある。
京都大学の物理学者たちが原爆製造のプロジェクトをたちあげる。軍からの命令という形だ。日本がアメリカにさきがけて原爆製造に成功すれば、日本が有利な形で戦争を終わらせることができる。戦争を終わらせ平和を取り戻すということに、物理学者たちの意義がある。そんな理屈でかれらは自らの原爆製造を合理化する。
だが、プロジェクトは暗礁にのりあげる。原爆製造のためにはウランの濃縮が必要だが、その技術が確立されていない。また、原料のウランを日本は自給できない。外国から輸入することもできない。技術も原料もないでは、原爆がつくれるはずがない。というわけで、このプロジェクトは実に間が抜けているのである。
ぐずぐずしているうちに、アメリカに先を越されて広島と長崎に原爆が落とされる。次は京都に落とされる可能性が高い。そこで主人公は、比叡山の上に登ってそこから京都に原爆が落とされる様子を眺めたいと思う。これも実に間の抜けた発想である。
そんなわけで、この映画は原爆というものに正面から向き合っているとはとても感じさせない。出来損ないの作品といってよい。
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