旧友と船橋でスペイン料理を食う

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旧友鈴生と久しぶりに船橋で会い、さるスペイン料理屋で歓談した。鈴生と会うのは実に六年ぶりのことだ。この六年間彼からは何の音沙汰もなかったので、もしや死んでしまったのかと思っていたくらいなのだが、先日いきなりメールをよこして、無沙汰をわびたうえで、是非一杯やりたいと言ってきた。そこで小生は次のようなメッセージを返した。「お便りありがとうございます/ずっと気になっていたのですが/また、もしかしてこの世に存在していないのかなどと心配していたのですが/お便りに接することができてうれしく思います/母君のご様子はいかがですか/前回お会いした時に母君の百寿祝いの扇子をいただいたことを思い出します/小生はいたって元気です/この分では百歳まで生きそうな勢いです/いつでも出かけることができますので/都合の良い日をご連絡ください/船橋あたりで会いましょう」

鈴生が言うには、無沙汰をした理由は二つある。一つは、母親の介護に多忙だったこと。かれのご母堂は昨年百五歳で亡くなったそうだ。それまでずっと自宅で介護していた。ゆっくり外出できる環境ではなかった。二つ目は、自分自身が病気で入退院を繰り返していた。自分の入院中はご母堂を老人施設に預けたそうだ。そうか、君も老々介護で大変だったんだね、と言うと、いまや自由の身になれたから、今後は自分の死ぬ準備をするつもりでいる。当面やりたいことは、母親の血縁者の墓参りをすることだ。母親の実家は桜島なので、桜島周辺を歩き回って、血縁者の墓参りをしたいと思うのだ。君のお母さんも鹿児島だったね、そう言うから、俺の家は母方の親戚との付き合いはあまりしなかった。だから、墓参りに行ったことはない。そう小生は答えた。

墓といえば、俺たちもそろそろ墓に入る覚悟をしておく必要があるね、なにしろいつ死んでもおかしくない年になったからね、そう小生が言うと、俺たちの共通の友人にすでに死んだのが何人かいる。最近はJが死んだそうだ。また、OやIも全然音信がないので、死んでしまった可能性が高い。ところで君は、なかなか死にそうには見えないね。百まで生きるつもりなのだろう、と鈴生は冷やかす。先日小生が出したメールの返事にこだわっているらしい。

こんな他愛ない会話をかわしながら、スペイン料理を楽しむ。この店は、何度か来たことがあるが、どうも経営者がかわったらしく、店の雰囲気も料理の味も以前と違う。以前は新鮮なシーフードが売りだったものを、いまでは肉料理を売りにしている。今夜は牛肉のワインソース煮をメインディッシュにして、赤ワインを楽しんだ。鈴生は近年頻尿になったといって、頻繁に席を立っていった。

お互い近況を述べ合った後、最近の世情を話題にした。自民党がだらしなくなったおかげで、政権交代の可能性が出てきた。そこへ民主党が野田を担ぎ出したのはどうもいただけないね。野田ではなかなか政権とりというわけにはいかんだろうよ、と小生が言うと、万が一野田が政権をとるようなことが起きたら、消費税の増税をたくらむに違いない。なにしろ官僚の言いなりになる男だからね、と鈴生は応じる。ところで君は自民党員だったが、いまでも党員なのかね、と聞くに、いやもうやってないよ。自民党員をやってもあまりいいことはないからね、と鈴生は言う。

ところで最近、高校時代の同級生という女性からメールがあったよ。なんでもネットで俺のサイトを見つけて、なつかしい気分になったんだそうだ。名前は何という人だね、と聞くから旧姓でKSというそうだ、と答えると、そんな名前の女性には記憶がないな、と鈴生は頭をかしげる。実は俺にも記憶がないのだよ。あなたのことが思い出せなくてすまないと言ったら、わざわざ高校時代の写真を送ってくれたりしたが、それを見ても思い出せない。俺が覚えているのは、EFという女性で、この女性には俺なりにいろいろな思い出がある。そこで、その女性がいまどうなっているか聞いたところ、彼女は男子に人気があって、いくつか恋愛沙汰を起こしたのち、いまはある金持ちの奥方に収まっていると知らせてくれた。女性は、自分以外の女性を話題にされるのを嫌うというが、このKSという女性はなかなかさばけた感じの人だったよ。しょっちゅう海外旅行に出かけているというから、金には余裕があるのだろう。

ところで最近俺は、眩暈に見舞われることが重なって、体調に不安を感じるようになった。眩暈に見舞われると意識を失ってしまう。旅行中に眩暈が起きると、とんでもないことになりそうで、海外旅行に二の足を踏むようになった、そう小生が言うと、国内なら大丈夫だろう。せいぜい鹿児島へでも旅して英気を養ったほうがいいよ、そう鈴生は励ましてくれた。こんな具合に、六年ぶりというにもかかわらず、しょっちゅう顔を見合わせているような間柄で会話を楽しんだ次第である。





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