デュフィはモーツァルトを敬愛していて、十数点の「モーツァルト頌」を制作している。1915年のこの作品は水彩画で、かれのモーツァルトへの敬愛がよく表現されたものだ。これを描いた頃のデュフィは、自分自身の画風の確立に向けて試行錯誤を続けていた。それまでは、表現主義の雰囲気を濃厚に感じさせるものが多かった。この絵には、それとは違った軽快さがうかがわれる。
デュフィがモーツァルトに感じた魅力は、単純な明快さだ。モーツァルトの強みは、単純で短いモチーフを組み合わせて、軽快でしかも踊りたくなるような愉快なメロディを繰り出すことだった。ベートーベンのモチーフも非常に短かったが(第五の出だしのように)、それを展開すると重々しい雰囲気になった。モーツァルトは決して軽快さを失わなかった。
石膏像にかたどったモーツァルトをピアノの上に乗せ、両肩からバイオリンが腕の代わりに伸び出ている。彩色は色鮮やかであり、水彩らしい透明感を強調している。
(1915年 厚紙に水彩 64・5×50.5㎝ バッファロー、オールブライト・ノックス・アート・ギャラリー)
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