アメリカ映画「ノマドランド」 車上生活者たち

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2020年のアメリカ映画「ノマドランド(Nomadland クロエ・ジャオ監督)」は、アメリカにおける車上生活者をテーマにした作品。タイトルのノマドは、フランスの哲学者ジル・ドゥルーズが流行させた言葉で、定住しない遊動民を意味している。それは当事者の意思にもとづく選択としての遊動なのだが、この映画の中の車上生活者は、外的な事情によってその生活を強要された人々である。かれらはヴァンやキャンピングカーに乗って、そこらじゅうを放浪しながら、日雇いの仕事で糊口をしのいでいる。ある種のホームレスといえなくもないが、当事者はホームレスだとは思っていない。ハウスレスではあるが、ホームレスではないというのだ。ハウスレスとホームレスのどこが違うのか。

架空の話ではなく、実際にあった話だ。2008年のリーマンショックはアメリカ経済に大打撃を与え、多くの企業が倒産、失業する人々が続出した。若い者はともかく、60歳を超えた老人にとっては、打撃は大きい。まともな仕事にありつけず、家を手放さねばならぬものもいる。そうした人々が、ヴァンやキャンピングカーで車上生活をするようになるのだ。

この映画の主人公の女性ファーンは、夫を病気で失って、しかも家も失い、ヴァンでの車上生活を始める。ネヴァダ州のあたりが彼女のフランチャイズだ。州内各地をまわり、日雇いの仕事にありつく。アマゾンの配送の仕事が一番性に合っていると思う。

車上生活であるから、トイレもないし、シャワーもない。時には草原で用をたすこともある。また、川に飛び込んで体を洗う。そんな生活だが、決して孤立しているわけではない。車上生活仲間がいるのだ。その仲間と助け合いながら、なんとか生きている。しかし、年のためもあって生活はますます苦しくなる。先は明るくはない。かれらを待っているのは野垂れ死にの運命ではないか。そんなことを観客に感じさせながら、映画は淡々と進むのである。

監督のクロエ・ジャオは、中国系。有色人種出身のアメリカ人がアカデミー賞を取ったのは彼女が初めてだという。






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