四方山の幹事会メンバーと久しぶりに歓談した。前回やったのは六月のことで、すでに半年近くたったから、鍋がうまい季節になったことでもあるし、例のメンバーで一杯やりませんかと総幹事の石子にメールしたところ、是非やろうということになった。浦子などは、生存確認の意味も含めてやろうと賛同した。そんなわけで、前回集まったのと同じ曙橋に集合した。小生はそもそも鍋を期待していたのだったが、なぜか中華料理にすり替わってしまったので、せめて中華風の鍋料理が食いたいねと希望を申しのべたところ、浦子が店の女将にかけあって、中華風鍋料理らしきものを出してもらうことにしたそうだ。
一同五時半に集合して生ビールで乾杯し、互いの無事を確認しあう。岩子はだいぶ白髪が増えたが、それはヘアダイをやめたのかね、と聞くと、もともとヘアダイなどやっておらんよ、と言う。へえ、その年になるまで真っ黒な地毛を誇っていたというわけかい、と残りの三人は驚く。石子と浦子はハゲの進行が止まったと言って喜んでいる。小生はと言えば、ハゲはまだまだ進行中である。
今年は世界中で選挙があって、そのたびにサプライズが続いたね。もっとも大きなサプライズはトランプが返り咲いたことだが、日本でも与党が過半数割れするなど、それなりのサプライズがあった。50人以上も立候補した都知事選で無名に近い新人が大量得票し、兵庫県知事選では、議会から不信任された知事が再選するなど、従来の常識を破るようなことが相次いだ。いったい日本の政治はどうなっているのかね、と浦子や石子は首をひねる。
トランプの返り咲きはサプライズではない、と小生は私見を述べる。これはトランプが勝ったというより民主党が自爆したと考えたほうがよい。その理由は、小生のブログ記事(落日贅言「ボケ老人が去って不良老人が戻ってきた」)に書いてあるのでそれを読んでほしいが、いずれにしてもトランプの返り咲きは世界中を大混乱に陥れると思うよ。しかもトランプは三選をめざす可能性が高い。三選が憲法で禁止されていることは、大した問題ではない。なにしろトランプは法を超越した存在として振る舞うだろうからね。憲法など大したハードルではない、と考えるだろうよ。
憲法がないがしろにされるというのは、法秩序が崩壊するということだ。とくに国際法の分野では法秩序はかなり崩壊しているといってよい。プーチンのウクライナ侵略やイスラエルのガザにおけるジェノサイドを、国際社会は止めることができない。イスラエルの無法な虐殺行為を、欧米諸国が露骨に支え、恥じる様子もない。とにかく、法秩序とか法的正義といった基本的な前提条件がまったく機能しなくなっている。いまの国際社会は無法状態といってよいほどだ。こうした傾向は、なかなか止みそうもなく、かえって今後ますます混沌としていくと予想される。とにかく憂鬱な限りだね、と一同溜息をつく。
イスラエルのジェノサイドはとにかくひどいね、と小生も同調する。アメリカの大手メディアはユダヤ人が牛耳っているから、イスラエルに不都合なことは書かない。だから、アメリカの国民はガザで起きていることに鈍感になっているし、日本も含めた大方の国でも同じようなものだと思う。イギリスのガーディアン紙はなかなか気骨があって、イスラエルの無法行為をするどく批判している。最近ジェノサイドのトータルな犠牲者について推定した記事を掲載したが、それによると、ジェノサイドにおける犠牲者は直接的な暴力の行使によって死んだ人間のほか、餓死や医療崩壊などによる間接的な犠牲者も含まれる。過去の事例をもとに推測すると、直接・間接の比率は1:4になるそうだ。これをもとに計算すると、いまの段階におけるジェノサイドの犠牲者は、18万人に上るはずだ。これは控えめに見積もった数字で、もっと増えるかもしれない。また、今後の攻撃の継続によって直接殺される人間の数が増えれば、全体としての犠牲者数も増える。場合によっては、数十万人になる可能性もある。これはイスラエルによるパレスチナの民族浄化だというべきだろう。
こんなことを額に青筋を立てながら語り合っている間に、料理が次々と運ばれてくる。浦子が特別注文した中華鍋らしきものも出てきた。これは鶏肉をベースにして、青物野菜、しいたけ、タケノコを煮込んだスープで、それを大きな鍋にあつらえたものだ。なかなかうまい。麻婆豆腐はこの店の看板メニューだけあって、これもなかなかうまい。過日石子がこの麻婆豆腐と炒飯を土産に持ち帰ったら、細君がいたく気に入って、また持ってきてほしいとねだられたそうだ。そこで石子には麻婆豆腐と炒飯の土産を持たせてやった。
石子と浦子は、家ではよく料理番をするそうだ。石子は一時期やもめになって、必要に迫られて料理をするようになった。浦子は結婚早々料理をさせられるようになった。細君の作る料理の味がいまひとつと言ったところ、じゃああなたが作りなさいと言われたのだそうだ。岩子は料理などしたことがないという。お前も上げ膳据え膳なのだろうと言うから、いや俺は朝昼自分で飯を作って食っているよ、と小生は答える。俺は朝と昼を兼ねたブランチで一日二食だ、と浦子が言う。俺は三食ちゃんと食っていると小生は言う。朝飯を食わないと、毎日の日課である論文作成に支障をきたす。朝飯を食わないと頭が働かないからね。自分で作るのは、配偶者が勤め人なので仕方ないのさ。
ところで、世界情勢がますます混沌化していく中で、日本は今後どのように振舞うべきかね、と浦子や石子が言うから、べき論は脇へ置いて言うと、日本は欧米の植民地主義国家と歩調を合わせて、次第に大胆になっていくのじゃないかな、と小生は私見を述べる。大胆とはどういうことかと言うので、おそらく戦前のように好戦的になっていくのではないか。台湾有事は日本にとって国家存亡の危機だなどという政治家が幅をきかせているくらいだから、中台関係のどさくさに付け込んで軍事介入するようなことが起きる可能性が高い。対朝鮮半島でも、日本は強気な姿勢をとるようになるのではないか。
こんなことを語り合うほどに憂鬱な気持ちに傾いていった我々だが、飲み始めて二時間ほどで切り上げることにした。二次会に移りたいと思うが、例のおじさんはまだ生きているかね、この前会った時にはかなり苦しそうな様子に見えたので、先は長くないと思っていたのだが、と小生が言うと、浦子が答えて言うには、二週間前に会ったばかりだから、まだ生きていると思うよ。そこで我々はおじさんの店に移った次第。店では、浦子の知り合いという老女の二人組がカラオケに興じていた。いつもどおりジャック・ダニエルスのハイボールを注文し、老嬢たちの歌を聞く。こぶしがきいてなかなかうまい。我々も負けずにやろうということになり、まずお前からやれといわれ、小生はシャンソンの「枯葉」をフランス語で歌った。以前歌ったときには、たまたま居合わせたプロの女性歌手が合唱してくれたものだが、今宵はそういうことは起こらなかった。そのうち、常連客らしい若い女性が単身やってきて、カウンターで飲みだした。おじさんとは仲良しらしく、くだけた雰囲気を楽しんでいる風情だ。そんなわけで今宵は、のどのリハビリにもなって、多少得したように感じたものだ。のどのリハビリは必要だよ。のどが硬直すると、嚥下能力が衰え、誤飲しやすくなるからね。お互い気を付けなければ。
なお、四方山話の全体会は、年があけたら新年会を兼ねてやろうということになった。
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