令和六年(2024)を振り返って 落日贅言

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令和六年は小生にとって、もしかしたら大きな転換の年になったかもしれない。今年で満七十六歳になった小生は、これまで至って健康であったのだが、秋口に帯状疱疹にかかって以来、すっかり体調を崩してしまった。なにしろ年末を迎えた今日現在、疱疹はまだ完全に消えてはおらず、神経痛も残存している。激痛ではないものの、しびれるような感じが不気味である。帯状疱疹は水疱瘡の後遺症みたいなものだそうだ。水疱瘡が治ったあとでも、それを引き起こしたウィルスは体内に潜伏している。それが年をとって体調のバランスが崩れると暴れ出して帯状疱疹を発症する。小生は子どもの頃に水疱瘡にかかった記憶がないので、自分は大丈夫だろうと思い込んで、予防接種の案内がきても気にしないでいた。それが間違っていた。だが後悔先に立たずである。体調の崩れは、足元が不如意になったことが大きい。帯状疱疹は神経にさわるというから、小生も神経をやられたかもしれない。今後、不如意な足元を抱えながら、だましだまし生きていかねばならぬ、と観念している。

今年は国の内外で色々重要な意味をもつことが起きた。一番大きい出来事は、米大統領選挙にトランプが勝ったことだ。トランプが勝ったこと自体に驚きはない。小生はトランプの勝利を確信していた。その理由については、このシリーズの先稿「ボケ老人が去って不良老人が戻ってきた」の中で小生なりの分析をしているので、それを読んでほしいが、トランプ再登場の意義をよくよく考えると、背筋がぞっとするような気持になる。トランプはすでに、二期目は独裁者として振る舞うと公言している。少なくとも大統領就任の日には、独裁者として振る舞うと言っている。おそらくその日のうちに、かれが今後やるつもりでいることを、大統領令という形で表明するであろう。その中には米憲法に抵触するような内容のものもあるというが、トランプは、憲法を含めあらゆる法を超越する存在として振る舞う可能性が高い。それは権力者自身によるクーデタと言ってよい。要するにトランプは、法の支配とか民主主義とか人権の普遍性とかいった概念をことごとく骨抜きにするであろう。そういう概念を用いて自分を批判するものを、あざ笑うばかりか、強圧的に黙らせるであろう。トランプは、自分を攻撃してきた人間に復讐すると言っている。そういう連中を刑務所に入れるというのであるから、実際トランプに盾ついたことを理由に訴追され、刑務所に入れられる人間も出てくるだろう。バイデンはそれに備えて、事前の恩赦を与えると伝えられているが、そんなものは、そもそも法や政治システムを尊重しないトランプにとって、何の意味もないであろう。

トランプにもし取り柄があるとしたら、それは無闇に戦争をしたがらないということだろう。実際トランプの一期目には大きな戦争は起きていない。戦争が好きなのは民主党のほうだ。これまでの歴史を振り返ると、朝鮮戦争にしろベトナム戦争にしろ民主党が始めた戦争を共和党の大統領が止めさせてきたという経緯がある。トランプは、ウクライナの戦争も中東での戦争もすぐに止めさせると言っている。トランプなら実際止めさせることができるかもしれない。トランプの意向を受けた形で、戦争の当事国(当事者)も何らかの反応を示し始めている。どういう形で戦争が終わるのか、それについては予断を許さないが、いつまで戦争が続くより、終わらせるほうがよいに決まっている。バイデンとその党には、ウクライナと中東における戦争状態を終わらせる意欲も能力もない。また、バイデンとタッグを組んできた西側諸国もトランプの意向を無視できないであろう。西側は、トランプがウクライナの支持をやめても自分たちでゼレンスキーを支え続けると言っているが、いつまでもできるわけでもあるまい。かれらがゼレンスキーを支え続けているのは、大義のためではない。自分らの利益のためである。ウクライナを使ってロシアを叩きたいだけの話だ。西側諸国にはロシアを叩く理由があるらしいが、トランプにはそんなものはない。

その西側諸国でも政治の風向きが変わった。今年行われた議会選挙で、ドイツとフランスでは与党が少数派に落ち、ショルツとマクロンの政治基盤が揺らいでいる。ウクライナ戦争に熱心なこの二人が退場すれば、トランプの影響はさらに強まるだろう。イギリスではまだ労働党政権が続きそうだが、それは労働党の業績というより、保守党がいまだに沈滞していることの効果に過ぎないと見たほうがよいだろう。西側を全体として見れば、右傾化の傾向が指摘できる。西側の右傾化とは、国際協調主義を軽視し自国中心主義を前面に出すことで、その点ではトランプのアメリカファーストに通じる。西側の自国中心主義が進めば、トランプのアメリカファーストとあいまち、国際社会の分断が進化するであろう。いまでも国際社会は名ばかりのものになっているが、ますますそれがひどくなり、国連は有名無実の存在と化すであろう。国連はいまでも西側諸国に軽視されている。そのうち完全に無視されるようになる可能性が高い。

国連が西側諸国に疎んじられる理由は、イスラエルの戦争犯罪を追及しているからだ。西側は、ことイスラエルの問題となると、公然とダブルスタンダードを用いる。アメリカやイギリスの政治にユダヤ人が強い影響を及ぼしていることがその背景にある。プーチンがブチャのウクライナ人を虐殺すれば西側はジェノサイドだといって大合唱するが、イスラエルのシオニストがパレスチナ人を虐殺しても見て見ぬふりをする。当のシオニストは、自分たちの軍隊はもっとも人道的な軍隊だとうそぶいている。人道的というのは、生きる価値のない人間を楽に死なせてやるということらしい。彼らはパレスチナ人を人間とは見ていない。鬱陶しいハエくらいに見ている。そのうえ、領土の侵略を公然とすすめている。今般アサド政権の崩壊に便乗して、シリア領土の侵略にも踏み切った。こうしたイスラエルの行動は、人類社会に対する挑戦と言ってよい。

西側の報道機関は、ユダヤ人に遠慮して、イスラエル国家の蛮行を報道したがらない。あるいは控えめに報道する。アメリカの大手メディアは特にそうで、それはユダヤ人が牛耳っているからだ。その中でイギリスのガーディアンはイスラエルの蛮行を厳しく批判してきた。ガーディアンはイスラエル国家によるパレスチナ人虐殺の実態を分析する記事を載せているが、それによると、実際に殺されたパレスチナ人の数は、公式発表の4万数千人の四倍にはなるだろうという。公式数字には、瓦礫の下で行方不明になった人や、餓死した人、医療崩壊の犠牲になった人の数は含まれておらず、それらの数を合わせれば、十八万人くらいにはなるだろうと言うのである。この途方もない犯罪を国際社会は裁かねばなるまい。でなければ人類にはましな未来は絶対に来ないと言うべきである。

日本が位置する東アジアも、トランプの登場で不安定化する可能性が大きい。トランプは対中国の経済戦争を仕掛けると公言している。トランプは中国との間で軍事的な緊張を高めたり、武力を用いた戦争をするつもりはないかもしれないが、関税などの手段を用いて、中国を経済的に懲らしめることはするだろう。その対中経済戦争に日本も巻き込まれる可能性が高い、日本には中国と戦うさしせまった理由はないが、トランプに強要されて、その片棒を担ぐことは避けられないだろう。中国側の報復関税でアメリカ産農産物が市場を失えば、その穴埋めを日本がしろと言う可能性はある。

中国をめぐっては、色々きな臭い動きはある。その中で今年台湾で成立した民進党の頼清徳政権はトラブルメーカーになる可能性がある。頼清徳は蔡英文以上に独立志向が強い。独立を振りかざして中国を過度に刺激すれば、不測の事態も考えられる。台湾人が独立志向を強めるのは台湾人の自発的な行為といってよいが、それに日本が変なかたちでかかわり応援するようなことをすれば、中国との間で無用の軋轢を生むことになろう。日本はかつて朝鮮を中国から独立させて、そのうえで併合した歴史がある。台湾の独立に変にかかわると、将来日本が台湾を取りにいくつもりだと勘ぐられかねない。

東アジアでは、韓国で尹錫悦大統領が非常戒厳を発布して6時間後にとりさげるという、それこそ非常事態が起きた。これは大統領によるクーデタのようなもので、韓国を過去の専制国家にしようという試みだとして、世界中から批判された。さいわい尹錫悦大統領の企みは成功しなかったが、こうしたことが起きるということは、韓国の政治が十分成熟していないことを意味しているのか、それとも民衆によって阻止されたことに、韓国の民主主義の成熟を見るべきなのか。

最後に日本国内に目を向ければ、今年の総選挙で与党が大敗し、野党が過半数を占めるという事態が起きた。これは自民党の金権政治に国民があきれはてた結果だと分析されているが、ついこの前まで予想もできなかったことが起きたわけで、政治の意外性を強く感じさせた。いづれにしても、民意を無視するものは民意によって裁かれるということであろう。

こんな具合で、今年は非常にあわただしい年であった。来年はどうなるか。今年よりましになるという見込みはない。かえって悪くなりそうである。何しろ今年を悪くした要因が、解消される見込みが立たないわけであるから。






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