1987年のデンマーク映画「バベットの晩餐会(Babettes gæstebu ガブリエル・アクセル監督)」は、高級料理を堪能する映画である。堪能されるのはフランス料理。それを超一流のコックが調理し、それを人々が感嘆しながら味わう様子を描く。しかしただのグルメ映画ではない。19世紀後半のユトランド地方の片田舎を舞台に、プロテスタントのデンマーク人たちの信仰をあわせて描いている。
ユトランドの片田舎に、牧師とその二人の娘が暮らしている。牧師は村の人々から尊敬され、そんな父親を二人の娘は誇りに思っている。だから、彼女らに求婚する男たちがあらわれても、応じない。父親のために生きることを選ぶのだ。その父親を中心とする協会のミサの様子が、この映画の最大の見どころかもしれない。かれらはエルサレムを心の故郷にしている。そこに小生のような外国人は、キリスト教徒に根強いシオニズムを感じる。キリスト教徒のシオニズムは、十字軍を編成させ、パレスチナの侵略に走らせた。今日欧米のキリスト教国家が、ジェノサイド国家イスラエルを支援しているのは、キリスト教シオニズムの表れなのだということを、この映画を見ずとも思い知らされる。
牧師の死後、一人の女性バベットが保護を求めてくる。その女性は、妹のほうにかつて求婚した男が紹介したのであった。1871年に起きた革命で、すべてを失い、命からがらデンマークまで逃げてきたという。その革命とは、パリ・コミューンのことだろう。デンマーク人にとっては、パリ・コミューンは他国の出来事だったが、マイナスの印象しか持てないようである。
女性は、無報酬の家政婦として働き、14年がたった。娘たちは亡父の生誕百年記念行事を催したいと考える。前後して、バベットが宝くじで1万フランの金を得る。バベットはその金で、フランス料理を作り、近隣の人々を招いて晩餐会を開きたいという。姉妹はその話に乗る。
バベットは高級食材を買い集めて、いよいよそれを料理する。ウミガメのスープとうずらの丸焼きが目玉だ。食卓にあつまった12人の客は、当初は遠慮していたが、味のよさに舌を巻き、ついには平らげてしまう。バベットは実は、パリの最高級レストランの女シェフだったことが判明する。客の一人でかつて姉に求愛したことがあり、いまは将軍になっている男が、その店で食事をしたことがあったのだった。
晩餐会が終わると人々は家に帰っていった。姉妹はバベットもいなくなるのだろうと思うのだが、バベットはこのまま置いてほしいという。金を使いきってしまったし、だいいちここは居心地がいいのだ。
グルメだけを押しだすと、くだらぬ映画になったであろう。信仰とか、人々の結びつきとか、デンマーク人の生き方にも光をあてることで、多少は見られる映画になっている。
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