聖地には蜘蛛が巣を張る イランの連続娼婦殺人事件

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アリ・アッバシの2022年公開の映画「聖地には蜘蛛が巣を張る」は、デンマーク映画ということになっているが、実際にはイランを舞台にしており、もっぱらイラン人が出てくる映画である。しかもイラン人にとって不愉快になるような内容である。そこでイランでは、ヨーロッパ人がイランを貶めるためにつくったプロパガンダ映画だと批判された。その一方ヨーロッパ諸国では絶賛された。かれらの反イスラム感情を満足させたからだと思われる。そんなわけでこの映画は、かなり政治的な色彩を感じさせる作品である。

イランの地方都市マシュハドで2000年から翌年にかけて起きた連続娼婦殺人事件をテーマにしている。スタッフはそのマシュハドでロケをしたいと考えたが、イラン当局の許可が下りないため、ヨルダンで撮影した。デンマークの映画スタッフが、イランをテーマにして、ヨルダンで撮影したということになる。まことに国際色豊かな作品である。

女性ジャーナリスト・ラヒミが、進行中の連続娼婦殺害事件にかかわるようになる。事件の手掛かりを求めて取材するうちに、或る娼婦に接触する。その娼婦は十人目の被害者になった。なかなか手掛かりが得られないので、自分自身が囮になる決意をする。ここぞと思われる場所で、男を待っているふりをしていると、殺人犯人のサイードがやってくる。彼女はサイードの家までつきあい、あやうく殺されそうになるが、九死に一生を得る。加えて男が殺人犯であるという動かぬ証拠も手にする。

かくしてサイードは裁判にかけられ、死刑判決を受けた上に、あっさりと首を吊られる。首は吊られたが、サイードは自分のやったことを後悔していない。かれは神に代わって正義を実行しただけなのだ。その正義を息子が受け継ぐ。息子は声高らかに叫ぶのだ。自分も父親の意思を継いで、汚れた娼婦たちを殺すつもりだと。

この映画が西欧諸国で絶賛された理由はわかるような気がする。イランは西欧諸国にとって共通の敵である。イランはイスラムの悪を代表している。そのイランは頭のいかれた人間の集まりである。その頭のいかれた人間の代表が、この映画の中の殺人鬼サイードである。そんな先入観が西欧諸国の人間らにはあって、その先入観をこの映画は裏書きしてくれると受け取られたのである。

一方、イランの人々にとってこの映画は、イラン人を侮辱するけしからぬ作品だと受け取られた。映画はかならずしもイラン人一般を侮蔑的に見ているわけではないが、イスラム的な正義が嘲笑されていることは確かなことなので、彼らの怒りもわかるような気がする。

監督のアリ・アッバシはイラン系のデンマーク人だそうだ。





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