
エゴン・シーレには死への強いこだわりがあった。上の姉と父の死がその傾向をもたらしたのだと思う。かれの一連のドッペルゲンガー・シリーズの作品もまた、ドッペルゲンガーを死神と捉えることができる。いつも死神に取りつかれている人間としてシーレは自己認識していたのである。
「妊婦と死(Schwangere Frau und Tod)」と題されたこの絵は、副題に「母と死(Mutter und Tod)」とあるように、妊娠したかれの母親が死神に取りつかれていることを明示している。実際にはシーレの母親は、かれがこの絵を描いたときには妊娠してはおらず、また死神に取りつかれている様子もなかった。それなのになぜ、シーレはこんなモチーフを思いついたのか。
ジャンルとしては寓意画といってよいが、何を寓意しているのかいまひとつわからない。画面右手が妊娠した女、左手が死神であろう。全体として暗い画面で、モデルの人物も浮かび上がってはみえず。背景の中に溶け込んでいるように見える。
(1911年 カンバスに油彩 100.3×100.1㎝ プラハ、国立美術館)
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