漢詩と中国文化

杞人憂:秋瑾を読む

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秋瑾の七言絶句「杞人の憂」(壺齋散人注)

  幽燕烽火幾時收  幽燕の烽火 幾時にか收まる
  聞道中洋戰未休  聞道(きくならく)中洋戰ひ未だ休まずと
  漆室空懷憂國恨  漆室の空懷 憂國の恨み
  難將巾幗易兜冒  巾幗を將(も)って兜冒に易(か)ふること難し

對酒:秋瑾を読む

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秋瑾の七言絶句「酒に對す」(壺齋散人注)

  不惜千金買寶刀  千金を惜しまず寶刀を買ひ
  貂裘換酒也堪豪  貂裘 酒に換ふれば 也(また)豪たるに堪へん
  一腔熱血勤珍重  一腔の熱血 勤めて珍重せば
  灑去猶能化碧濤  灑ぎ去りて猶ほ能く碧濤に化すが如し

梅:秋瑾を読む

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秋瑾の七言絶句「梅」(壺齋散人注)

  本是瑤臺第一枝  本(もと)是れ瑤臺の第一枝
  謫來塵世具芳姿  塵世に謫來して芳姿を具(あらは)す
  如何不遇林和靖  如何せん林和靖に遇はざるを
  飄泊天涯更水涯  天涯に飄泊して更に水涯
ノンフィクション作家山崎厚子さんの秋瑾伝「秋瑾 火焔の女」を読んだ。中国清朝末の女性革命家として知られる秋瑾は、日本ではあまり紹介されることがなく、竹田泰淳の書いた「秋風秋雨人を愁殺す」などによって、わずかに彼女の生涯の輪郭を知りうる程度だったので、山崎さんのこの本は、日本人が秋瑾を知る上での貴重な手がかりを増やすことになろう。

不幸な結婚:魯迅「傷逝」

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魯迅の短編小説「傷逝」は、男女の結婚の破綻とそれがもたらした不幸を描いたものだが、それには魯迅自身の個人的な事情もいくらか盛り込まれていると考えられる。この小説の中の主人公は、魯迅自身と重なりあう部分をある程度持っていると推測されるのである。

野次馬根性:魯迅「引き回し」

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魯迅の短編小説「引き回し」は、中国の民衆のもつ野次馬根性を正面から描いたものだ。中国人の野次馬根性を魯迅は、あの有名な幻燈事件のさいに、いやというほど思い知ったのであったが、そのときに感じたであろういやな思いを、この小説の中で吐き出した。そんなふうに思わせる一篇である。

不幸な女乞食の話:魯迅「祝福」

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魯迅の短編小説「祝福」は、或る女乞食の不幸な生涯を描いたものだ。不幸な生涯を描くのに「祝福」と題したのは、他でもない。祝福というのは、中国の片田舎の町の大晦日の祭のことをいうのだが、その祭の日に生じた小さな出来事が、この小説の中の話のきっかけとなっているのだ。その出来事とは、ある女乞食が小説の語り手に思いがけないことを問いかけてきたことだった。その女乞食は、語り手を学問のある人と見込んで、こう尋ねたのだ。すなわち、人間が死んだあとで魂はあるのか、もしそうなら地獄というものはあるのか、また、死んだら家族はいっしょになれるのか。

彷徨:魯迅の文学世界

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「彷徨」は、魯迅第二の短編小説集であり、かつ彼の最後の小説集にもなった。1924年から翌年にかけて執筆した短編小説11篇を収めている。この時期は中國の革命運動が沈滞し、各地に軍閥が割拠して、中国社会に大きな暗雲が垂れ込めていた時期である。俗に五四退潮期などと呼ばれている。そんな時代背景もあったのか、ここに収められた作品の多くは、「吶喊」で展開したテーマ、すなわち中国社会の前近代性の告発というテーマを引き継ぎながら、それについての内省を一層深めるというスタンスをとっている。

魯迅は「故郷」の中で、自分が少年時代を過ごした牧歌的な世界を懐かしく思い出してみたが、その懐かしい世界は、大人になった今では、もう二度と戻ることのできない遠い世界のこととして、記憶の彼方に消え去ってしまっていた。その消え去ってしまったはずの懐かしい世界を、追憶の中でもよいから体験しなおしてみたい。そんな思いから書かれたのだろうと、思わせるような作品がある。「宮芝居」である。

身分による差別を描く:魯迅「故郷」

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魯迅の短編小説「故郷」は、日本の中学三年生の国語教科書すべてに採用されているそうである。中学三年生といえば、生涯でもっとも多感な時期だから、その時に感動したことは一生心から離れることはないだろう。それほど意義のある読書体験を、日本の国語教育は、魯迅という中国人作家の作品を通じてさせようとしている。魯迅のこの作品のどこに、そんな期待をさせるような要素があるのだろうか。

虚偽の社会を描く:魯迅「阿Q正伝」

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阿Q正伝」は魯迅の代表作であり、中国文学にとって記念碑的な意義を持つ作品であるから、幾通りもの読み方を許容するような広がりと深みを持っている。もっとも素直な読み方としては、阿Qという人物を通して、辛亥革命が中国の一般社会にどのようなインパクトを与えたのか、それを考えさせるものだとする読み方もあるだろうし、また、そもそも辛亥革命が矮小なものに終わりがちだった所以、それを暴露するのが主な目的だとする読み方もあるだろう。そして、そこで暴露されているのは、中国社会に蔓延する虚偽なのであり、それは、いいかえれば、「狂人日記」のなかで主人公が糾弾していた旧弊、つまり食人道徳というべきような、非人間的な道徳観念なのだということになる。こうした見方に立てば、「阿Q正伝」は「狂人日記」の中で提示されていたテーマを、ぐっと進化させたものだということもできよう。

民衆の痴愚蒙昧を描く:魯迅「明日」

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魯迅は短編小説「薬」の中で、人肉で作った饅頭を食えば、どんな病気も忽ちに治るという迷信の犠牲となって、むざむざ息子を死なしてしまう親たちの蒙昧ぶりを描いていたのだが、続いて「明日」という短編小説の中でも、同じようなテーマ、つまり民衆の痴愚蒙昧というテーマを取り上げた。

魯迅の処女小説「狂人日記」は、色々の点で中国文学にとって画期的な先品である。まず、口語体で書かれた初めての小説だという点。語彙や文法の点で、まだ文語の面影を完全には払しょくしていなかったが、句読点の用い方などを工夫することによって、なるべく日常の話し言葉に近づけようとする意図が伺われる。円熟した口語体が自在に用いられるようになるには、翌年発表の「孔乙己」を待たねばならないが、とにかくこの作品は、中国文学にとって、口語体で文章を書くという画期的な方向性に、初めて応えた作品なのである。

吶喊:魯迅を読む

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魯迅が日本に留学したそもそもの目的は近代医学を学ぶことだったが、彼はその目的を途中で放棄して、文学を志すようになった。何故そうしたのか、その経緯なり理由について、魯迅は処女作品集「吶喊」自序の中で書いている。

示兒:陸游の辞世の句

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陸游の辞世の七言絶句「兒に示す」(壺齋散人注)

  死去元知萬事空  死し去りては元より知る萬事空しと
  但悲不見九州同  但だ悲しむ九州の同じきを見ざるを
  王師北定中原日  王師北のかた中原を定むるの日
  家祭無忘告乃翁  家祭忘るる無かれ乃翁に告ぐるを

八十四吟:陸游を読む

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陸游の七言律詩「八十四吟」(壺齋散人注)

  七十人稀到  七十すら人稀に到るに
  我過十四年  我過ぐること十四年なり
  交遊無輩行  交遊 輩行する無く
  懐抱有曾玄  懐抱 曾玄有り
  飲敵騎鯨客  飲んでは敵す騎鯨の客
  行追縮地仙  行は追ふ縮地の仙
  城南春事動  城南 春事動き
  小蹇又翩翩  小蹇 又翩翩たり

素飯:陸游を読む

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陸游の七言律詩「素飯」(壺齋散人注)

  放翁年來不肉食  放翁 年來 肉食せざるも
  盤箸未免猶豪奢  盤箸 未だ猶ほ豪奢たるを免れず
  松桂軟炊玉粒飯  松桂 軟かく炊ぐ 玉粒の飯
  醯醬自調銀色茄  醯醬 自ら調ふ 銀色の茄
  時招林下二三子  時に招く 林下の二三子
  氣壓城中千百家  氣は壓す 城中の千百家
  緩步橫摩五經笥  緩步して橫ざまに摩す 五經の笥
  風爐更試茶山茶  風爐 更に試む 茶山の茶

山村経行因施薬五首:陸游を読む

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陸游は本草の知識を生かして晩年医師のようなことをした。医師と言っても、症状に応じた薬草を調合してやるくらいのことだったろう。それでも、まともな医師のいない郷里近くの山村地帯にあっては、民衆の頼りになる存在だったようだ。そんな医師としての自分の生きざまをテーマにした詩がある。開禧元年(1205、81歳)のときの連作「山村経行因施薬五首」がそれだ。

懐旧:陸游を読む

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陸游の七言律詩「懐旧」(壺齋散人注)

  身是人間一断蓬  身は是れ 人間の一断蓬
  半生南北任秋風  半生 南北 秋風に任す
  琴書昔作天涯客  琴書 昔 天涯の客と作り
  蓑笠今成沢畔翁  蓑笠 今 沢畔の翁と成る
  夢破江亭山駅外  夢は破る 江亭 山駅の外
  詩成灯影雨声中  詩は成る 灯影 雨声の中
  不須強覓前人比  須ひず 強ひて前人に比を覓むるを
  道似香山実不同  香山に似たりと道ふも 実は同じからず

衰嘆:陸游を読む

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陸游の五言律詩「衰嘆」(壺齋散人注)

  十年三堕歯  十年 三たび歯堕つ
  久兮嘆我衰  久しいかな 我の衰ふるを嘆くこと
  亹亹循天理  亹亹(びび)として 天理に循ひ
  兢兢到死時  兢兢として 死の時に到らん
  窮空顔子巷  窮空 顔子の巷
  勤苦董生帷  勤苦 董生の帷
  道遠余生趣  道遠くして 余生趣(すみやか)に
  常憂日影移  常に日影の移るを憂ふ
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