美を読む

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「1940年の夢(Le rêve de 1940)」と題するこの絵は、「ルーマニア風のブラウス」と対をなすものである。マティスはこの二つの作品を非常に気に入り、自分のアトリエの壁に、並べて架けていたほどだった。

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「ルーマニア風のブラウス(La blouse roumaine)」と題したこの絵は、非常にシンプルに見えるが、シンプルなだけにいっそう、構図の決定にはかなりな時間を要した。マティスがこの絵を完成させるにあたって描いた習作が十三枚も写真に残されていることからも、そのことがわかる。

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マティスは、いろいろなタイプの絵を描いたが、もっともマティスらしさを感じさせるのは女性の肖像だ。いろいろな技法を用いて、時代ごとに描き方は変遷したが、女性の美、それは肉感的な美といってよいが、それをキャンバスの上に定着させようとした。一群のオダリスク像はそのもっとも完成された形だ。

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マティスには、以前手がけたモチーフを、新たな視点から再構成した作品群があるが、「音楽(La musique)」はその代表的なものだ。これは、1910年の大作「音楽」を意識した作品であるが、一見すると、構図と言い色彩と言い、大分違った印象を与える。前の作品は五人の男たちをモデルにして、構図も色彩もごくシンプルだが、こちらは二人の女をモデルにして、構図は多分に装飾的であるし、色彩も華やかだ。だが相違の中で最大のものは、「音楽」の表現の仕方だろう。前の作品からは画面から音があふれ出してくるように感じられるのに対して、この絵からはそういう感じは伝わってこない。むしろ沈黙が伝わってくる。ギターにストリングが張られていないのは、それが沈黙していることの視覚的な表現なのだ。

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「バラ色の裸婦」のモデルに起用したリディア・デレクトルスカヤを、マティスは非常に気に入り、続いて「青の婦人(La dame en bleu)」と題する比較的大型の絵のモデルにも使った。彼女のことをマティスは「アマゾネス」と呼んだが、それは彼女の大柄な体格と常軌を逸したプロポーションを評してのことだった。この絵から連想されるように、リディアは十頭身以上の巨躯の女性だったようだ。

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マティスは、1930年から三年かけて、フィラデルフィアのバーンズ財団の美術館を飾る為の壁画の製作に没頭した。それは、美術館の壁に開いた三つの扉の上の壁を飾るもので、テーマはマティスにとって馴染みの深い「ダンス」だった。三年ものあいだマティスは、自分のすべてをこの壁画の製作に打ち込んだわけだが、彼が注いだ力に見合うほどの名声は、この作品は彼にもたらさなかったようだ。

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1930年、マティスはアメリカ経由で南太平洋のタヒチに旅行した。動機は、南洋の明るい太陽の光を一身に浴びたいということだった。マティスはそれまでも、明るい太陽を求めて、南仏や北アフリカに拘ってきたわけだが、その拘りが地球的な規模にまで膨らんだというわけだろう。タヒチには数週間滞在し、帰りはスエズ運河経由の航路を取った。

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「トルコ風肘掛け椅子のオダリスク(Odalisque au fauteuil turc)」は、1928年に「二人のオダリスク」と前後して描かれた。マティスはこの絵が気に入っていたようで、友人への手紙の中でも、「勝ち誇ったような輝きのなかに、陽光の明るさが満ち溢れているでしょう」(高階秀爾監訳)と書いて自慢している。

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マティスは1925年の夏に、家族を伴ってイタリアに旅行した。その時にミケランジェロの作品を集中的に見て、それを踏まえた多くの習作を生んだ。それらは、いわゆるミケランジェロ・タッチと呼ばれるダイナミックな感じのものだった。マティスもミケランジェロ同様、人体に拘った彫刻家でもあったので、二人の人体の見方と表現の仕方には共通するものがあったのだろう。要するに精神性よりも、肉体性(ボリューム感)を重視するものだ。

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「装飾的身体(Figure décorative sur fond ornemental)」は、マティスの代表作の一つである。彼はこの作品を、20年代に多作していたオダリスク像の延長として描いたのだろう。1926年のサロン・デ・チュイルリに出展したところ、大きな反響を呼んだ。その反響には好意的なものと、非難がましいものとの両方があったが、この作品がマティスにとって新たなスタイルを予感させるという評価では一致していた。

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タイトルのマグノリアとは、木蓮科の花のことである。モデルの背後にある衝立らしきものの模様に、そのマグノリアが使われている。衝立の前に横たわっているのは、アンリエットだろう。白い上着と白いスカートを履き、上半身をはだけているポーズは、「赤いキュロットのオダリスク」と似ている。角度が横向きなところが違っているだけだ。

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マティスは1920年代に、オダリスクをモチーフにした多くの作品を描いた。オダリスクとは、トルコのハーレムに仕える侍女のことだ。マティスはモロッコに何度も旅をしたが、そのさいにイスラム趣味の一環として、このオダリスクに興味を覚えたのだろう。フランスでは、アングルなどが過去にオダリスクをモチーフにしていたこともあって、なじみのあるテーマでもあった。

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1920年代に入るとマティスは、再び具象的で色彩豊かな絵を描くようになる。今度の場合は、具象的なフォルムは肉感的になり、色彩もそれに応じて感性的なものになった。この背景には、マティスのたびたびのモロッコ旅行がある。モロッコに旅行したことでマティスは、ある種の異国趣味を搔き立てられ、それを絵の中に反映させようとして、このような感覚的な絵を描くようになったのだと思われる。

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1910年代の半ばから末にかけて、マティスはある種の転換期を迎えた。それまでの、装飾的で色彩豊かな技法を一旦ペンディングにして、ピカソのキュービズムの実験に共鳴するような、抽象的で理屈ばった絵を描くようになった。構図がいっそう抽象的になり、色彩的には地味でかつ単調さが目立つようになった。この時期のマティスの絵の評価は、マティス本来の傾向からの逸脱であり、したがって退化だとする見方と、新たな芸術の開発に向けての偉大な実験だったとの見方とに分かれている。前者の見方のほうが有力なようである。

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「画家の家族(La famille du peintre)」は1911年に、「赤のアトリエ」を含むアトリエ四部作の一つとして描かれた。他の三作と比較して、この絵にはかなり違ったところがある。全体に装飾的だという印象は変らないが、ほかの三作が単純な色彩配置になっているのに、これはマニアックなほどに微細なタッチで描かれている。そういう点で、この時期のマティスの絵にしては、ユニークなものである。

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「赤のアトリエ」同様「会話(La conversation)」も、背景を一色で塗りつぶしたものだ。当初は「赤のアトリエ」と同じく、赤で塗りつぶしていたものを、後に青で塗りなおしたという。暖色の赤と寒色の青では全く正反対の色相なので、塗り替えによる効果はドラスティックに変ったはずだ。マティスが何故、赤から青に塗り替えたか、作品のモチーフと並んで、いろいろな解釈がなされている。

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「ダンス」と「音楽」は、シチューキンには気に入ってもらえたが、美術批評家たちの反応はさんざんだった。批評の主なものは、構図も色彩も単純すぎる一方、単純さがもつ力強さにも欠け、非常に中途半端な、要するに子どもでも描けるものだというものだった。マティスは絵の中に、筋肉的な躍動感とか音楽的な要素を持ち込もうとしたが、本来視覚の芸術にそんな要素を持ち込むのは邪道だ、という批判もあった。

音楽(La musique):マティス、色彩の魔術

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「ダンス」が気に入ったシチューキンは、続いて音楽をテーマにした同じようなサイズの絵を注文してきた。彼の三階建てのアトリエの、二階部分のメーンとして飾りたいという意向であった。マティスは二つ返事で請け負った。マティスにとってシチューキンは最大のお得意先だったので、大事にしたのだろう。

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ロシア人の美術評論家で、マティスの得意先でもあったシチューキンが、1909年の3月頃、マティスに装飾用パネルの創作を依頼してきた。三階建ての彼のアトリエの一階ホールに飾りたいという趣旨だった。ダンスをテーマに描いて欲しいという。マティスは早速水彩画で習作を描き、それをシチューキンに見せたところ、シチューキンは大いに気に入った。そこでマティスは、油彩による本格的な作品をすばやく完成させた。

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1908年の作品「赤い食卓(La desserte rouge)」は、マティスがフォーヴィズムを完全に脱却して、全く新しい境地に入ったことをうかがわせる作品だ。遠近法とか色彩の調和についての従来の常識を悉く覆したこの絵は、絵画という形式の芸術に新しい時代が幕を開けた、と人々に感じさせた。

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