世界情勢を読む

トランプがイスラエル首相ネタニアフとの会談後に行った記者会見の席で、これまでアメリカの外交方針だったイスラエル・パレスティナの二国家共存構想に疑問を投げかけた。その意図は、これまでこの構想が実現しなかったのだから、ここで新しいアプローチを考えてもよいということらしい。

トランプが登場して、アメリカのエスタブリッシュメントと世界秩序への挑戦を叫ぶようになって、世界に大きな衝撃が走っている。従来の同盟国を含めてどの国にもマイナスの影響が予想されるなかで、最も大きな影響を蒙るのは中国だと思われる。その影響は経済と政治の両面に及び、場合によっては新たな冷戦の始まりを予想させるような厳しいものになる可能性がある。

先般、トランプとベルルスコーニの共通点を強調する意見を紹介したが、最近はトランプをフィリピンのドゥテルテに比較する議論もあるようだ。最近のJapan Times に載っていたフィリップ・バウリングの小文などもその一つだ。バウリングによれば、この二人は致命的なところで共通の間違いを犯している。それは同じく共通点と言っても、負の共通点というわけだ。

トランプ政権がいよいよ発足した。トランプ始め、かれを取り巻く一党のメンバーを見て、一昔前の西部劇に出て来たならず者一家を想起したのは筆者のみではあるまい。

保守派の論客で、辛口批評で知られるジョージ・ウィルが、Japan Times に寄せた文章の中で、トランプを評して「アメリカ政治界のゲンゴロー」と言った。ゲンゴローというのは、甲虫の体を起用に動かして水の上を移動しているが、それは無心に動いているから浮いていられるのであって、俺はどうして浮いているんだろうなどと考えはじめたら、沈んでしまう。それと同じように、トランプも何も考えずに生きている。考えることは自分にとって得策でないと、本能的にわかっているからだ、というのである。

イギリスの首相テレサ・メイが、所謂Hard Brexitの方向性について言明した。ごくかいつまんで言うと、EUの単一市場を脱退してでも移民の流入を抑止するというものだ。移民の流入について、彼女の抱く危機感を反映した選択だと受け止められる。

共和党主導の米議会が、いわゆるオバマケアの廃止に向けて動き出した。オバマケアについては、トランプも廃止の意向を示していたが、これは共和党が党是のようなものとしていたこともあり、共和党優位の政治状況を踏まえて、一気に廃止してしまおうということらしい。廃止後、どのような形でフォローするのか、いまのところ共和党は明らかにしていない。とにかく気に入らないこの制度をまず潰してしまえという思惑が透けて見える。

習近平政権が、歴史教科書における日中戦争史の記述を書き換える動きを始めたそうだ。これまでは、日中戦争の開始は1937年の盧溝橋事件とされ、それから終戦までの八年間を日中戦争とし、これを抗日戦あるいは八年戦争と呼んできた。それを変えて、1931年の満州事変を日中戦争の開始とし、この戦争を十四年戦争と呼ぶべく、歴史教科書の現場に指示したというのである。

今年行なわれるフランス大統領選で、極右政党国民戦線(FN)の党首マリーヌ・ル・ペンが勝つ公算が強まっている。もしそうなった場合には、強烈なナショナリストを標榜する指導者がヨーロッパの大国に現れるわけで、EUはおそらく解体するだろうと予想される。そればかりでない、欧米における政治地図が一変するような事態が起こる可能性もある。

トランプがツイッター上で、北朝鮮の核ミサイルがアメリカ本土を直撃する可能性について、「そんなことは起こらない」と北朝鮮を挑発するかのようなことをツイートした。トランプがどんな根拠でこんなことを言ったのか、世界中が喧々諤々の反応を示している。

ロシア政府がアメリカの大統領選にかんして所謂サーバー攻撃を仕掛けたことで、選挙結果に重大な影響が生じたと判断したオバマが、ロシア大使館員らを国外追放するなど、報復制裁措置をとった。これに対してプーチンのほうは、いまのところは鷹揚に構えている。大統領がトランプに変れば状況も自ずから変わるはずだから、なにも慌てることはないと判断しているようだ。

著名な理論物理学者のスティーヴン・ホーキング博士が、テレビインタビューの中でトランプを批判し、彼は「最小公分母にアピールしているようなデマゴーグだ(a demagogue who seems to appeal to the lowest common denominator)」と言った。

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写真(TIMEから)は、山西省太原市の一角に登場した膨張式の巨大なアイコン。鶏になったトランプをイメージしているそうだ。2017年が酉年なので、このようなアイコンを作り、正月に先立って披露されたのだという。

安倍晋三総理がプーチンに色目を使って東アジアから目を背けている間にも、この地域の情勢は確実に変化している。それを一言で言えば、中国の影が地域全体に広がりつつあるということだ。その動きについて、筆者の参照できる範囲の情報をもとに、概観してみたい。

長い間シリアの反体制派の拠点だったアレッポがアサド政権によって制圧されたことに伴い、大規模な虐殺が起っているようだ。アサド政権は、アレッポの住民全体をテロリストとみなし、成人男性はもとより女性や子どもまで殺している。こうした事態に対して国連などが憂慮を表明しているが、アサド政権による虐殺は一向おさまる気配を見せないようだ。

世論の右傾化が世界規模で進んでいることの背景では、インターネットが一定の役割を果たしているようだ。日本では、ネトウヨと呼ばれる連中が極右的な言説を垂れ流しているが、それは安倍政権の登場によって励まされた面がある。ヨーロッパでもナショナリズムの高まりに伴い、排外主義的な言説が広まりつつあり、今回のトランプ政権の登場によって、それが世界規模で増幅する事態が予想される。こうした極右的な言説は、極端な人種差別をその共通の特徴としているようだが、彼らの攻撃の矛先は、ユダヤ人とかイスラム教徒へと向かう。


奇想天外な閣僚人事で世間を騒がしているトランプが、今度は麻薬取締局の長官に、メキシコの麻薬犯罪王で、エル・チャポ(El Chapo ちび)のニックネームで知られるホアキン・グスマンを起用する意向を見せて、これまで最大級のサプライズを引き越している。

トランプが労働長官に起用したアンドリュー・パズダー(Andrew Puzder)は外食産業のCarl's Jr. and Hardee'sを経営しているが、これは所謂ブラック企業として有名だ。従業員からの苦情を受けて労働省が調査したところ、その60パーセントで最低賃金以下であったり、法の基準を超えたオーバーワークが指摘された。アメリカではブラック企業という言葉はないらしいが、日本のブラック企業も顔負けするほどのブラック振りらしい。それの経営者が労働長官になるわけだから、労働者にとっては笑えない話だろう。

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雑誌TIMEが、毎年恒例のPerson of the Yearにトランプを選んだ(写真は当該号の表紙)。紹介のコメントには、President of the Divided States of Americaと記した。これに対してトランプは、これを報ずるテレビ番組に電話出演して、感想を述べた。「選んでもらったのは光栄だが、"分裂"と書くのは嫌味だと思う。私はまだ大統領ではないので、分裂させるようなことは何もしていない」と言ったそうだ。

プミポン王の死後保留されていたヴァジラロンコン皇太子の王位継承が実現した。皇太子自身の不人気に加え、現王朝は九代で滅びるという予言が広く信じられていたこともあって、ヴァジラロンコン皇太子の即位はないのではないかとも言われていたが、結局彼が即位するということで最終的な決着がついたわけだ。

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