経済学と世界経済

今年度のGDPが0.5パーセント減との政府見通しが発表された。消費増税による個人消費落ち込みが主な原因だ。一方、アベノミクスの恩恵を受けて、大企業の懐具合は好調だ。株高で投資家の懐も潤っている。ということは、資本収益率が上昇しているということだ。

専門分野の学者としては異例の人気を誇るのがフランスの経済学者トマ・ピケティ。その主張の概要は、資本主義というものは基本的な傾向として、格差を拡大させることを本質としている、と主張していることだ。先年アメリカで起きた「ウォール・ストリート占拠運動」は、彼の説に鼓舞された部分が大きかったといわれる。そのピケティの講義の様子を、昨夜(一月九日)のNHKが伝えていた。それを見ると、ピケティの主張のあらましがよく伝わってくる。

「週刊東洋経済」の新年号に眼を通していたら、目先の景気動向についての予測と言うか、希望的な観測のようなものを、自称エコノミストたちがおしゃべりしている中で、辛口の予測を目にした。日本の首相安倍晋三は「日本を破滅させた男」として歴史に名を残すでしょう、というのだ。言っているのはジム・ロジャーズ。あのジョージ・ソロスと並んで著名な投資家として名を知られた人物だ。

アベノミクスの浮かれ騒ぎに呼応するかのように、東京の株価も1万8千円の大台に乗った。その背景には、120円を突破した円安の動きがあることはいうまでもない。ともあれ安倍政権とその仲間たちは、この事態を以て、あたかも日本経済全体が好くなっているかのように言いふらしているが、果してそうか。筆者には、ただのバブルとしか見えない。

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上の表は、最近の円安と日本の輸出との相関関係をあらわしたものである(ソースは英誌 Economist)。2011年の末から今日まで、円安傾向はほぼ一貫して続いているのに対して、日本の輸出の伸びはかならずしもそれに比例して伸びていないことがわかる。名目の輸出額は伸びているが、実質輸出量は伸びておらず、2011年末を100とした実質輸出量は全く変わっていない。一方その間における円の相場は80円から110円へと、実に三割以上も下落している。

昨日(11月19日)は、所謂アベノミクスが、「アホノミクス」から「ドアホノミクス」に進化したとの、経済学者浜矩子女史の説を紹介したところだが、筆者自身が最近の「アベノミクス」に抱いている印象は、どうも統制経済を狙っているのではないか、というものだ。

アベノミクスの阿呆ぶりを称して「アホノミクス」と断じたのは、日頃率直な物言いで知られる経済学者の浜矩子女史だが、その女史が最近は「アホ」のうえに「ド」をつけて「ドアホノミクス」というようになった。その訳は二つあると女史は言う。一つは、「アベノミクス」が人間不在である点、もう一つは、アベノミクスがグローバルな経済環境と親和性が低く、このままでは日本の国民経済が消滅する恐れがあるという点だ。

昨日(11月17日)、7月~9月期のGDPの実質成長率が公表された。年率換算でマイナス1.6パーセント、二期連続のマイナス成長であり、日本経済が本格的な不況局面に入っていることを証拠立てた形だ。この結果株価は急落する一方、円安も進んだ。気味の悪い展開といえよう。

ポール・クルーグマンが、「日本への謝罪」へと題した小論をニューヨーク・タイムズに寄稿している。自分も含めて欧米のエコノミストたちは、この20年間の日本の経済的な失敗を嘲笑しつづけてきたが、もはやそんなことはしていられない。笑われるべきなのは、いまの我々欧米のエコノミストなのだ、という趣旨である。新味のある内容は殆どないが、何かの参考になると思われるので、引用しておきたい。

日銀がこれまでにも増して大胆な量的緩和策を打ち出したと言うので、市場関係者の間でちょっとしたフィーバーになっている。折からアメリカのFRBが、量的緩和政策の打ちきりを発表したところだ。このタイミングでなぜ、日銀は追加の量的緩和に踏み切ったのか。黒田日銀総裁は、依然としてデフレ状況から抜け出せない日本経済を活性化させ、成長軌道に乗せることが目的だと、大見栄を切っているが、この言葉を額面通りに受け取る者は、余程の経済音痴というほかあるまい。

先日、ドイツが46年ぶりに無借金財政に戻ったということが話題になった。いわゆる経済アナリストの中には、これを日本と比較して、何故ドイツではできたことが日本では難しいのか、といった議論をする者もいた。そんなことは、別に経済アナリストたちの世話にならなくとも、わかりきったことだろう。ドイツには、財政が楽になるそれなりの事情が、日本には財政が苦しくなるそれなりの事情があるのだ。

ポール・クルーグマンがアベノミクスを高く評価していることはよく知られている。アベノミクスとは周知のように、長州人安倍晋三の面目躍如たる三本の矢からなっている。大胆な金融緩和、積極的な財政出動そして成長戦略だ。このうちクルーグマンが評価するのは最初の二本の柱だ。それに対して三本目の柱は、クルーグマンではなく、クルーグマンの敵対者たるサプライサイド・エコノミストたちによって評価されている。ある種のねじれ現象を引き起こしているわけだ。

ポール・クルーグマンの不況の経済学はますますケインズ色を濃くしてきていると、前稿で指摘した。近著「さっさと不況を終わらせろ」(山形浩生訳)では、クルーグマンは不況対策の柱を、金融緩和、財政出動、インフレ誘導に置いた。ところが、今の経済学の主流派を自認する人々は、ことごとくこれとは正反対の考え方をする。金融引き締め(金利の引き上げ)、財政赤字の縮減(政府支出のカット)そしてインフレ不安の解消こそが、経済の健全化をもたらし、不況の克服につながるというのだ。クルーグマンはそう主張する連中をオーステリアン(緊縮論者)と呼んで、その主張のナンセンスぶりを叩くとともに、その主張の影に隠された真の意図について暴露している。

ポール・クルーグマンは、デフレ不況の克服についてかねてより政策提言を勢力的に行ってきた。その柱は、大胆な金融緩和、政府による積極的な財政出動そして適度なインフレと言うことであった。そしてこの三つの柱の中でも、金融政策に大きなウェートを置いてきた。日本のような巨大な債務を既に抱えてしまっている国では財政出動にもおのずから限界があるのに対し、金融緩和なら財政赤字を気にしないでできるし、またインフレを引き起こす手段としても使える、そんな判断が働いたためだろう。

ポール・クルーグマンによれば、「2006年に、最高給のヘッジ・ファンドマネージャー25人の稼ぎは併せて140億ドルで、これはニューヨーク市の学校教師八万人全員の給料合計の三倍だ」そうだ(クルーグマン「さっさと不況を終わらせろ」山形浩生訳)。

フランスの経済学者トマ・ピケティの著作「21世紀の資本論」が世界的な反響を呼んでいるそうだ。ポール・クルーグマンなどは「ピケティは我々の経済的論議を一変させた」といって絶賛したようだが、何がそれほどのインパクトを与えるのか。筆者はこの本をまだ読んではいないが、彼自身がこの本の意義について発言しているのを朝日が紹介していたので、それを読みながら、多少のことを考えた次第だ。

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英誌 Economist の最近号が、クローニー・キャピタリズム(Crony Capitalism)なるものについて、興味深い検討を加えている。Our crony-capitalism index Planet Plutocrat Economist

藻谷浩介氏の著作「デフレの正体」を読んだ。氏は安倍政権の理論的支柱となっているいわゆるリフレ派の経済学者から目の仇にされていることで知られているが、何故彼がリフレ派に憎まれるのか、この本を読むと、その理由がよくわかる。彼は現在の日本経済が陥っている状態を、鳥瞰的な視野からあざやかに描きだしており、それがリフレ派の近視眼的な人々には到底理解できないのだ。彼らは自分の理解不能を棚に上げて、藻谷氏の理論を許すべからざる挑戦だと受け止めているようなのである。

NHKスペシャルの『急増! 新富裕層の実態』という特集番組(8月18日放送)が、グローバル化を背景に登場した新富裕層と言われる階層の、登場の背景やその実態について紹介していた。この番組を見ると、所謂グローバル化の時代における、国民国家と個人との関係について、強く考えさせられる。

マネタリストの主張はある前提の上に成り立っている。金融政策には対称性が成り立つという前提だ。金融を引き締めれば景気の過熱を抑えることはほぼ実証された経験的事実であるが、その逆も成り立つ、つまり金融を緩和すれば、景気は必ず良くなるという主張だ。これは一見理屈に適っているかのように見える。しかし、必ずしもそうはならない。何故なら、金融政策には非対称性があるからだ。

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