長谷川和彦の1976年の映画「青春の殺人者」は、中上健次の短編小説「蛇淫」を映画化したもの。原作は1974年に千葉県市原市で起きた親殺し事件を下敷きにしたものだが、そこには中上らしい事件の読み方が働いていたように思える。この事件は、裕福な家庭の息子が一時の激情に駆られて刹那的に両親を殺してしまったといわれるが、中上はそこに、激情の背景にあったものを見ているようなのだ。現実の犯人は、娼婦まがいの女との交際を両親に咎められてかっとなったと言われたが、この映画の中の息子はもっと鬱屈した感情をもっていたように描かれている。この映画の中の女は、母親の連れ合いの男からレープされたり、複雑な過去を背負っており、そんなこともあって、社会的に差別されているように描かれている。中上自身は、差別に対して非常に敏感なので、この小説の中の若い男女も、社会の差別意識の犠牲になったのではないかと思ったフシがある。
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