映画を語る

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トラン・アン・ユンはベトナム人だが、その彼が村上春樹の有名な小説「ノルウェーの森」を日本映画として作った。村上と五年がかりで交渉して映画化権を得たプロデューサーが、ベトナム人のトラン・アン・ユンにメガホンをゆだねた形だ。どういう事情からかはわからない。村上自身はその映画に満足の意を示したということらしいから、彼の起用は成功したということになる。興業的にも成功した。

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トラン・アン・ユンの2000年の映画「夏至」は、現代ベトナム人の生き方を描いたものだ。これといったストーリーはない。三人の姉妹の、それぞれの生き方が情緒豊かに描かれている。といっても、この映画を通じてどれほどベトナム人を理解できるかは、別の問題だろう。ベトナムといえば、フランスによる植民地支配を戦争を通じて脱却したあと、対米戦争を経て社会主義国になったといういきさつがあるが、そうした歴史的な背景は一切触れられていない。ごく普通の国の、ごく普通の人々を、ごく普通の観点から描いている。

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「青いパパイアの香り」は、日本で始めて公開されるベトナム映画とあって、小生もものめずらしさから、神田の岩波ホールまで見に行ったものである。しっとりとした画面がなかなか印象的だったことを覚えている。四半世紀ぶりに見たところ、記憶の中身と違っているところがあったりしたが、それなりに面白かった。

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ブリランテ・メンドーサは、「ローサは密告された」で警察の腐敗を描き、鋭い社会的な視線を感じさせたものだ。「キナタイ マニラ・アンダーグラウンド」は2009年の作品で、「ローサ」より七年前に作ったものだが、これもやはり警察の腐敗をテーマにしている。警察はやくざまがいのビジネスをするばかりか、殺人も平然と行う。それを見ると、フィリピンの警察組織がいかに腐敗しているかよくわかる。

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2016年のフィリピン映画「ローサは密告された」は、現代フィリピン社会の闇を描いた作品。現代のフィリピン社会には多くの不条理が蔓延しているといわれるが、この映画が取り上げるのは、麻薬の蔓延と権力の腐敗である。どちらもドゥテルテ政権と深いかかわりがあるので、この映画は、痛烈なドゥテルテ批判ということができる。そんな映画がフィリピンで作られたということは、ある意味すさまじいことだ。

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2016年のフィリピン映画「立ち去った女」は、フィリピン映画としてはじめて、世界三大映画祭のグランプリ(ヴェネツィアの金獅子賞)をとった作品。四時間近い長編だが、監督のラヴ・ディアスはこれを超える長編映画を幾つも作っており、長編作品が得意ということらしい。

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2017年のグルジア映画「葡萄畑に帰ろう」は、難民迫害をコメディタッチで描いた作品。折からアメリカではトランプが大統領になって、露骨な難民迫害を始めていた時期なので、この映画はそれを批判したものと受け取れぬこともない。もっともトランプの難民迫害が、トランプの人格を反映して、非人道的で仮借ないものだったのに対して、この映画の中の難民迫害には、やや人間らしさを感じさせるところはある。

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2019年公開の映画「ダンサー そして私たちは踊った」は、グルジア系スウェーデン人レバン・アキンの作品である。一応、スウェーデン・グルジア・フランスの共同制作ということになっている。テーマは同性愛に目覚める若い男の心の揺らぎ。それにグルジアの民族舞踏とかグルジア的な人間関係のあり方を絡ませてある。

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グルジア人の映画作家オタール・イオセリアーニにはファンタスティックな傾向があって、「セリーヌとジュリーは船でゆく」などはそうした傾向を強く感じさせたものだ。2015年にフランスで作った「皆さま、ごきげんよう(Chant d'hiver)」は、そうしたファンタスティックな傾向が極端に現われた作品である。

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2013年製作のグルジア・エストニア合作映画「みかんの丘」は、翌年製作されたグルジア映画「とうもろこしの島」とよく比較される。どちらも、アブハジアをめぐるアブハズ人とグルジア人の扮装をテーマにしており、人間同士の殺し合いを強く批判するメッセージが込められている。

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2017年の映画「とうもろこしの島」は、グルジア人によるグルジア映画であるが、グルジア人ではなく、アブハズ人の暮らしを描いている。アブハズ人は、グルジア国内の少数民族で、多数派のグルジア人とはたびたび紛争を起してきた。この映画は、そうした紛争を背景に、厳しい境遇を生きるアブハズ人の老人とその孫娘との懸命に生きる姿を描いている。実に感動的な映画である。

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1988年のグルジア映画「懺悔」は、ある種のディストピアをテーマにした作品である。そのディストピアは、どうやらスターリン時代のグルジアらしい。スターリンは大規模な粛清を行ったわけだが、その実態は、あまり明らかになっていない。この映画は、グルジアでは、地方自治体の幹部がスターリンの意を戴して粛清を行ったというふうに伝わってくるように作られている。

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2002年の映画「月曜日に乾杯!(Lundi matin)」は、グルジア人であるオタール・イオセリアーニがフランスで作った作品である。プロデューサーはフランス人たちであり、主演俳優もフランス人だが、映画そのものの雰囲気はあまりフランス的ではない。なんとなく東方の雰囲気を感じさせる。それには俳優の一部にグルジア人が加わっていたり、バックミュージックに東方的な雰囲気があるからかもしれない。

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オタール・イオセリアーニはグルジア人だが、色々な事情があって、グルジアで映画を作ることがむつかしくなり、フランスで映画作りをするようになった。1999年の映画「素敵な歌と舟はゆく(Adieu, plancher des vaches!)」は、フランスで作った作品であり、パリを舞台に、フランス人たちの生き方を描いている。

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旧ソ連圏のなかで、グルジアは映画作りが盛んなようだ。日本ではかつて、岩波ホールで「グルジア映画祭」が催されたことがある。オタール・イオセアリーニは、グルジア映画を代表する監督としての名声が高い。2010年に作った映画「汽車はふたたび故郷へ」はかれの代表作。かれはフランスで映画を作ることが多いそうだが、この映画も、半分はフランスを舞台にしている。

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2002年の中国映画「上海家族(仮装的感覚)」は、思春期の少女の視線から見た中国人の家族関係を描いた作品。この映画を見ると、現代中国人の家族関係の特徴が、すくなくともその一端は、理解できるのではないか。日本の家族関係と比べると、かなり違ったところがあるように思える。それはおそらく、親族の構成原理が違っているからだろう。エマニュエル・トッドの家族類型論によれば、日本の家族は、長子相続を柱にした権威主義的なものなのに対して、中国の家族は、家父長制を柱とした平等主義的なものだという。その違いがこの映画では浮き上がってくるように見える。

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1999年の中国映画「草ぶきの学校(草房子)」は、中国の農村部における子どもたちの暮らしぶりを情緒たっぷりに描いたものだ。この手の映画は日本人も好きで、戦前の名作「風の中の子どもたち」や戦後井上陽水の音楽共々ヒットした「少年時代」などが思い浮かぶ。この中国映画は、中国人の目から自分たち中国人の子ども時代をなつかしい気持を込めて描いたものだ。

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2005年の中国映画「白い馬の季節」は、内モンゴルの草原地帯に暮すモンゴル人遊牧民の厳しい生活ぶりを描いたものだ。監督のニンツァイは内モンゴル出身の俳優で、これが初メガホンだという。モンゴル人の生活ぶりが情緒たっぷりに描かれており、見甲斐のある作品である。

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2002年の中国映画「雲南の少女ルオマの初恋」は、雲南省に住む少数民族ハニ族の少女の恋を描いたものだ。ハニ族は、雲南省南部を中心に約140万人からなる少数民族で、ユニークな衣装や山間部の棚田が有名だという。この映画でも、主人公のルオマはハニ族特有の衣装を着て、ユニークなヘアスタイルをしているし、また棚田ののどかな風景も披露されている。

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劉浩(リウ・ハオ)の2004年の映画「ようこそ、羊さま(好大一対羊)」は、中国の貧しい農村の人々の生き方を描いた作品である。2004年といえば、改革解放の恩恵は内陸部の農村地帯には及んでいないと見え、とにかくすさまじいほどの貧困振りがうかがえる映画だ。人々は貧困な上に、因習的でしかも無知である。だからといって、必ずしも不幸なわけではない。人々自身が自分を不幸とは思っていないのである。そんな人々の生き方を、叙情たっぷりに描いたこの映画は、実にほのぼのとした気分にさせてくれる不思議な映画である。

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