映画を語る

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伊藤俊也の1998年の映画「プライド 運命の瞬間」は、東京裁判結審五十周年を記念して作られた。東京裁判を日本側の視点から描いた映画といえば、小林正樹が1983年に作ったドキュメンタリー作品が有名だ。小林の映画は、それまで日本人の間にわだかまっていた東京裁判の正統性への疑問を、裁判全体を追跡することを通じて明らかにしようとしたものだった。伊藤のこの映画は、更に一歩進んで、日本側には裁かれる理由はなく、それを裁こうとする連合国は、法的な根拠をもたない単なる私刑を行ったというようなメッセージを色濃く発している。時代の流れがそうさせたのであろう。この映画では、日本側を代表する東条は英雄に近いような人間像に描かれ、裁く側を代表するキーナン検事はまるで道化のような描かれ方である。

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1999年公開の映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」は、キューバ音楽の俄バンドの活動振りを追ったドキュメンタリー作品である。ロード・ムーヴィーやドキュメンタリー映画に定評のあるドイツ人監督ヴィム・ヴェンダースが手がけ、アメリカやキューバで上映された。キューバ音楽の魅力を改めて認識させたものとして、大きな反響を呼んだ。

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森達也が1998年に公開したドキュメンタリー映画「A」は、原一男の「ゆきゆきて神軍」と並んで、日本のドキュメンタリー映画の傑作といわれる作品である。「ゆきゆきて」で助監督を務めた安岡卓司が製作に加わっているのも何かの因縁だろう。しかしその出来栄えについては、賛否に激しい対立がある。

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2012年のドイツ映画「みつばちの大地」は、蜜蜂の生態と人間とのかかわりを描いたドクメンタリー映画である。この映画が作られた数年前、おそらく2006年頃から、蜜蜂の世界規模での消滅が問題となっていた。それは2012年にも未解決であったから、このドキュメンタリー映画は、蜜蜂消滅の原因に焦点をあてながら、蜜蜂が人間にとって持つ意味を考えようとするものである。

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広島・長崎への原爆投下をテーマにしたドキュメンタリー映画「ヒロシマナガサキ」は、日系アメリカ人のスティーヴン・オカザキが作った。かれはこれを、原爆投下50周年を記念して作るつもりだったが、折からスミソニアン博物館での原爆展企画が物議をかもしていたこともあり、世論の反発を慮って見送り、60周年にあわせて製作しなおした。公開は2007年1月である。

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2012年のサウジアラビア映画「少女は自転車にのって」は、サウジアラビアにも映画文化が存在するということを世界に認識させた作品。厳格なイスラム社会として知られるサウジアラビアに、映画文化が存在するということが、世界中の人々には意外だったのではないか。しかもこの映画は、自転車に乗る少女をテーマにしている。サウジアラビアの女性が、つい最近まで自動車の運転を禁止されていたことはよく知られているが、この映画を見ると、自転車に乗ることもタブーだったらしい。とはいえ、乗り物一般が女性に禁止されていたわけではない。ラクダに乗ることは許されていたはずだ。

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2015年の映画「ガザの美容室」は、ガザに暮すパレスチナ人監督タルザン・ナサールが、フランス資本の協力を得て製作した作品。一美容室を舞台に、ガザに生きる人々の厳しい状況を描いている。ガザといえば、イスラエルによる度重なる攻撃が人道問題として脚光を浴びてきたが、この映画にはイスラエルによる攻撃は出て来ず、そのかわりガザにおけるハマスとファタハの軍事衝突が出てくる。今ではハマスはガザを代表する立場だが、かつてはファタハとの間で激しい主導権争いを演じていた。この映画は、その主導権争いが背景になっている。

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2017年のレバノン映画「判決、ふたつの希望」は、レバノンにおけるパレスチナ問題をテーマにした作品。レバノンは、複雑な人口構成もあって国内政治が混乱しがちであったが、ヨルダン内戦でヨルダンを負われたPLOが活動拠点をレバノンに移したことで、政治状況は一層不安定化した。1970年代には、黒い九月事件にともなうイスラエルの攻撃があり、引き続き大規模な内戦も起きた。そうした歴史を踏まえて、レバノンは21世紀に入っても、さまざまな国内対立を抱えている。この映画は、そうしたレバノン国内の対立、とくにキリスト教徒とパレスチナ人との憎しみあいをテーマにした作品だ。

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アモス・ギタイはイスラエル国籍のユダヤ人だが、フランスで映画作りをしたこともあった。2009年の作品「幻の薔薇(Roses a credit)」も、フランスで作った映画だ。舞台はフランスのさる町、俳優もフランス人であり、フランス映画といってよい。フランス映画であるから、フランス人の生き方をテーマにしているのは、当然のここといえるのだが、そこにはギタイのユダヤ人としてのこだわりを感じることができないでもない。

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アモス・ギタイの2007年の映画「撤退」は、2005年にイスラエルのシャロンが行った「ガザ撤退」をテーマにした作品。この撤退作戦は、第三次中東戦争で占領したガザのユダヤ人入植地からの撤退を主な目的としていた。シャロンがなぜこの作戦に踏み切ったか、詳しい事情はわからない。シャロンは対パレスチナ強行路線で知られており、パレスチナ人に譲歩するこの作戦には動機の不明な部分が多い。もっともこの作戦後も、イスラエルのユダヤ人はたびたびガザを攻撃し、2014年にはホロコーストと呼ばれるような大虐殺事件を起している。

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アモス・ギタイの2005年の映画「フリー・ゾーン 明日が見える場所」は、イスラエルにおけるユダヤ人とアラブ人(パレスチナ人が中心)との関係をテーマにした作品。他のギタイ作品同様、この映画もユダヤ人の立場を一方的に擁護するのではなく、アラブ人の立場にも配慮し、なるべく公平に事態を描こうとする姿勢が感じられる。この映画が作られた2005年は、第二次インティファーダと呼ばれる大規模な衝突が起きた直後であり、ユダヤ人とパレスチナ人の対立が深刻化していた。そうした中で、両者の和解を促すようなメッセージが認められないこともない。

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2002年のイスラエル映画「ケドマ 戦禍の起源」は、イスラエル建国の一齣を描いた作品。イスラエル映画であるから、基本的にはイスラエルのユダヤ人の視線から描かれているが、監督のアモス・ギタイにはかなり相対的な視点が働いていて、かならずしもイスラエルのユダヤ人が正義で、パレスチナのアラブ人が不正義だというような一面的な見方をしてはいない。ユダヤ人に追われるアラブ人の怒りも描かれている。

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2000年のイスラエル映画「キプールの記憶」は、第四次中東戦争の一齣を描いた作品である。この戦争は、ユダヤ人の祝祭日であるヨム・キプールの日に始まったことから、「ヨム・キプール戦争」とも呼ばれる。映画のタイトルはそれから取られているわけである。

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2004年の映画「シリアの花嫁」は、シリア人ではなくイスラエル人であるエラン・リクリスが作った作品だ。文字通りシリア人の結婚をテーマにしている。なぜ、イスラエル人のリクリスがシリア人の結婚を描く気になったのか。動機はよくわからない。だが、映画を見る限りでは、シリア人への侮蔑的な視線と、イスラエル人への好意的な見方が伝わってくる。その意味では、イスラエルの国益に沿ったプロパガンダ映画の要素を持っているとはいえる。

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アラン・レネといえば、絶滅収容所をテーマにしたドキュメンタリー映画「夜と霧」が有名だ。それを公開したのは1955年のことだったが、それから半世紀以上経った2014年に「愛して飲んで歌って(Aimer, boire et chanter)」を作った。実に90歳のときである。高齢の監督としては、ポルトガルのオリベイラがあげられるが、アラン・レネも決して負けていないということだろう。

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2012年のフランス映画「最初の人間(Le premier homme)」は、アルベール・カミュの同名の自伝的小説を映画化したもの。カミュは1960年に交通事故で死ぬのだが、その際にカバンの中から小説の草稿が発見された。それがカミュの死後34年後に刊行された。この映画はそれを原作としたものである。

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「キリマンジャロの雪」といえば、ヘミングウェーの有名な小説が想起されるが、2011年のフランス映画「キリマンジャロの雪(Les neiges du Kilimandjaro)」は、それとは関係がない。この映画は、フランスの労働者気質のようなものをテーマにしている。

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2004年のフランス・アフリカ諸国合作映画「母たちの村(Moolaadé)」は、少女割礼をテーマにした作品である。少女割礼というのは、まだ幼い頃に陰核を切除するという風習で、アフリカ諸国に広く伝わっている。この映画では、セネガルの割礼を取り上げているようだ。男子の割礼は衛生保持が目的とされるが、女史の割礼にはそういう意味合いはなく、性についての偏見からなされているとして、ヨーロッパ諸国特にフランスでは評判が悪い。反割礼キャンペーンが張られたくらいだ。この映画は、フランスでのそうした動きを背景にしたものだと思われる。フランスは、たとえば反イスラム・キャンペーンなど、異文化に対して不寛容なところがあるが、そういう不寛容さはこの映画からも伝わってくる。

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ルネ・フェレの2001年の映画「夕映えの道(Rue du Retrait)」は、初老の女性と高齢の女性との触れ合いをテーマにした作品である。会社を経営する初老の女性が、ふとしたことで出会った高齢の女性が気がかりになって、なにかと世話をするうちに、彼女に対して特別な感情を抱くようになる。一方高齢女性のほうは、不幸な過去のせいで強い人間不信に陥っており、自分に対してやさしく接してくれる相手になかなか心を開かないのだが、やがて相手の誠意に心を開くという内容である。高齢女性が心を開いたのは、死を目前にしてのことだった。彼女は末期癌を患っているのである。

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アラン・レネといえば、1955年に発表したドキュメンタリー映画「夜と霧」の印象が大きい。初期にはそうしたドキュメンタリー風の短編作品を手がけていたのだったが、そのうち長編劇映画も作るようになり、結構息の長い映画生活を送った。2009年に作った「風にそよぐ草(Les Herbes Folle)」は、かれが87歳の時の作品である。

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