「透光の樹」は、高樹のぶ子の一連の官能小説の頂点をなすものだ。前に読んだ「蔦燃」に比べると、構成の点でも文体の点でも各段の進歩が認められる。官能的という面でも、一段の進化が見える。その進化は、高樹が人間の性愛を即物的な面に還元したことから生まれてくるようだ。この小説で描かれた男女の性愛には、精神的な要素はほとんどないに等しい。なにしろ小説の主人公である千桐という女性が、「女は思わないで感じちゃうから」と言って、女が性愛をもっぱら下半身のことがらとしてとらえているほどなのだ。そんなわけだから、この小説で描かれた男女の性愛はとことん下半身にかかわることとして割り切られている。そういう意味で、官能小説の旗手といわれる高樹のぶ子は「下半身の作家」ということができよう。
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