経済学と世界経済

「資本主義・社会主義・民主主義」の本文が書かれたのは1942年のことであり、その後、1946年と1949年に付録の部分が書き足された。すでに本文を書いた時点でシュンペーターは、先進諸国における社会主義化の傾向を避けられないものとして考えていたが、戦後その考えが強まったばかりか、一部の国では社会主義化が進行していると認識するに至った。しかしそういう傾向について、シュンペーターはかなり懐疑的である。

「資本主義・社会主義・民主主義」の第五部は、「社会主義政党の歴史的概観」に宛てられている。その歴史は、シュンペーターが「幼年期」の社会主義と呼ぶものから、マルクスの社会主義を経て、20世紀における各国の社会主義運動に及んでいる。それをごく簡単に要約すれば、社会主義運動は歴史の進行にあわせるかのように発展したけれど、それはマルクスの主張に沿ってではなく、資本主義を修正するような形で進んできたということである。シュンペーターによれば、マルクスは社会主義の到来を予言したことでは間違っていなかったが、それがどのようにして到来するかを、正確に予見できなかったということになる。

シュンペーターの民主主義論の特徴は、民主主義と社会主義との相性について着目することにある。というのもかれは、民主主義をブルジョワ社会の産物と考えているからだ。としたら、ブルジョワ社会が廃棄されるのと同時に民主主義も無意味になるのか、ということが問題となる。そのことをかれは、「社会主義はそもそも民主主義的たりうるや否や、またそれはいかなる意味においてそうでありうるか」という言葉で表現する。

シュンペーターは、自分は社会主義者ではないと言っておきながら、社会主義は資本主義の内在的な傾向から必然的に生まれるものであり、したがって止めようのないものだと認識していた。その(後者の)点ではマルクスと同じである。違うのは、マルクスが社会主義への移行を革命のイメージで捉え、そこに暴力の介在を認めるのに対して、シュンペーターは革命などという大げさな事態なしでも、社会主義は平和的に実現される可能性が高いと考えていたことだ。

シュンペーターは、資本主義はそれ固有の政治的・社会的・精神的文化を生み出すと言う。それをシュンペーターは「資本主義の文明」と呼んでいる。資本主義とは、シュンペーターにとっても、基本的には経済システムである。その経済システムが基盤となって、それに対応する文明が生まれるという構図だ。それをシュンペーターは次のように説明する。「近代文明のいっさいの特徴と業績も、これすべて直接間接に資本主義過程の産物である」

シュンペーターは、「資本主義・社会主義・民主主義」の第二部のタイトルを「資本主義は生き延びうるか」とし、その問いかけに対して「否」と答えることから議論を始める。シュンペーターは、基本的には資本主義を信頼していたと思うのだが、その未来については悲観的だったわけである。資本主義の未来に否定的なことではマルクスと同じと言えるが、先稿でも指摘したとおり、その理由が違っている。マルクスは、資本主義の抱えている矛盾とか失敗とかがその理由だと考えたのに対して、シュンペーターはその逆に、資本主義の成功こそがその滅亡の原因になると考えた。その上で、マルクスが社会主義者の立場から資本主義を否定したのに対して、自分はそうではないと主張する。「ある予見をなすことは、けっして予言した出来事の進行を願っていることを意味するものではない」という理屈からだ。かれは資本主義には生き延びて欲しいが、色々な理由でそうは行かないと言っているのである。

シュンペーターは、マルクスに両義的な感情を持っていたようである。かれは、資本主義がそれに固有な内在的傾向によって社会主義に転化するとした点ではマルクスと同じ意見を持っていたのだが、それの具体的な理解の点で違っていた。マルクスは資本主義没落の原因を、それの抱える矛盾に求めた。その矛盾が資本主義への抵抗に火をつけ、没落させると考えた。いわば資本主義の失敗がその没落を招くと考えたわけだ。それに対してシュンペーターは、資本主義が没落するのは、その矛盾によってではなく、したがって失敗によってではなく、かえって成功によってだと考えた。資本主義が成功すればするほど、それは社会主義を招き寄せると考えたわけである。

シュンペーターは動態的な経済理論で知られる。景気循環や経済発展の傾向性を分析した。もともとは、ワルラスの一般均衡論に強い影響を受けたのだったが、それを前提にして経済の動態的な現象を分析したのだった。一般均衡論というのは基本的には静態的な分析手法を用いるのだが、それをシュンペーターは動態的な現象にも適用したのである。かれの動態的経済理論は、ケインズの経済政策理論と並んで、20世紀の経済学を牽引したといってよい。そのケインズの理論を、シュンペーターは停滞主義理論だといって強く批判している。停滞主義理論とは、経済発展(及びそれにともなう社会の変化)を考慮しない理論だという意味である。

IMFがこのたび公表した日本経済についての年次審査報告なるものの中で、日本の消費税を20パーセントに上げるように提言した。これは長期目標であって、とりあえずは2030年までに15パーセントに引き上げ、2050年までに20パーセントに引き上げるのが望ましいとしている。我々日本人としては、いらぬお世話と言いたいところだが、IMFなりに真面目な提言ということらしい。

2020年の1月31日を以て、イギリスのEU離脱すなわちブレグジットが決定した。今後一年近い移行期間を経て、来年の始めから本格的な離脱が実現する。これについては様々な意見があるが、小生にもそれなりの考えがあるので、それをここで披露しておきたい。

MMT(現代金融理論)の提唱者ステファニー・ケルトン女史が来日し、日本経済にアドバイスしている。MMTというのは、財政赤字の拡大を容認する理論で、主流派の経済学者からは異端視されている。財政赤字を恐れず、どんどん公債を発行し、それを日銀が買うことで、積極財政を推進すべきだというのが、彼女の主張の要点だ。彼女の言うことが仮に正しければ、日本は膨大な国債の堆積を気にすることはなく、これからもどんどん赤字国債を発行し、積極的な財政運営をするべきだということになる。しかしながらそんな、打ち出の小づちのような都合のよいものがありうるのか。

ここ数年、日本の景気は上向いている。なんだかんだ言っても、景気の良さは株価に反映しているし、雇用も完全雇用に近い状態だ。そうした景気の良さは、賃金の上昇や物価の上昇といった指標には現れてはいないが、したがって景気の実感が末端まで行き渡っているわけではないが、トータルで見ればここ数年の日本の経済は好調を続けていると言ってよい。

トランプが日本を名指しで批判し、日本が為替操作を通じて円安誘導していると言ったことを受けて、安倍内閣の官房長官が早速、その指摘は「全くあたらない」と反論したほか、安倍晋三総理自身も、トランプの指摘は「あたらない」と逆批判した。その理屈は、日本の金融緩和政策は「物価安定目標のために設けられているもので、円安誘導を目的としたものではない」ということらしい。

トランプが大統領就任の当日に、かねての公約だったTPPからの離脱とNAFTAの再交渉を正式に表明した。TPPもNAFTAも自由貿易の枠組として、アメリカが主導して作ってきたものだ。それは、自由貿易がアメリカ資本にとっての活躍のチャンスを拡大するという信念に基づいていたわけだが、自由貿易にはアメリカにとって不都合なこともある、とトランプが判断して、今回のような事態になったわけだ。どんな不都合があるのか。それはトランプ自身が自分の行為を通じて語って見せた。NAFTAの枠組を利用した自動車資本が、メキシコで安く車を作り、それをアメリカに輸出する。そのおかげでアメリカは雇用を失う一方、メキシコなどの外国に一方的に利用される、これはアンフェアだ、そういう不都合をトランプは訴えたわけだ。それ故、TPPとかNAFTAを見直すのは、アメリカの雇用や産業の活性化にとって当然のことなのだ、と言いたいわけであろう。

安倍政権が立ち上げた「国際金融経済分析会合」に、スティグリッツ博士に続いてハーヴァード大学のジョルゲンソン教授を招き発言させた。このジョルゲンソンなる人物のことを筆者は詳しくは知らないので、あまり突っ込んだことも言えないのだが、その発言を聞いた限りでは、どうやら市場原理主義者の類に属するようだ。今の時勢に、経済を活性化するために投資を拡大する必要があり、そのためには投資減税をする一方、財政規律を保つために消費増税をするべきだといっているところからそう判断される。

安倍政権が「国際金融経済分析会合」なるものを立ち上げ、それにノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ博士を呼んで意見を聞いた。この会合は、表向きは伊勢志摩サミットの準備のためのもので、今後の世界経済の動向を占うという意義を持たされているが、実は消費税増税の再延期のための布石ではないかとの見方がなされている。国内の議論だけではなく、国際的な議論をしたというお墨付きを得て、消費税増税再延期を理屈付けしようとしているのではないか、というわけである。とすれば安倍政権は、困ったときの神頼みではないが、ノーベル賞経済学者のブランドを利用して自分たちの思惑に箔をつけようとしていることになる。

安倍晋三総理が国会質疑の中で、GRIFの運用損が伝えられていることに関して、将来GRIFの運用が悪化すれば年金給付額が減額されることはありうると答えたそうだ。大方の日本人はこれを聞いて唖然としたのではないか。

公的年金資金の運用を担う年金積立金管理運用独立行政法人(GRIF)が、今年7~9月のわずか三か月間で、約7.8兆円の損失を出したと発表した。積立金の総額は130兆円余りであるから、馬鹿にならない数字だ。こんな調子で損失が重なれば、どんな事態が待っているか。そんなに想像力を働かせなくともわかろうというものだ。

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上の図表は、日銀の公式データをもとに英誌エコノミストが作成したものである。2011年初頭以降の消費者物価の動きを表している。黒田体制になって以降上昇傾向を続けた消費者物価は、消費税が8パーセントに引き上げられた2014年4月に一気に上昇速度を速めた後、その年の夏をピークにして下落傾向に転じたことが読み取れる。だが、消費税アップによる影響を除けば、消費税のアップを境にして消費者物価が下落傾向に転じたということがわかる。黒田総裁は、就任時に約束した2パーセントのインフレ基調の実現を、当分先延ばしにせざるを得なくなっている。

ギリシャが国債の返還期限を前に資金の手当ての見込みが立たず、このままではデフォールトに陥る可能性が非常に高いと言って大騒ぎになっている。ギリシャの債権者であるIMFやECBなどは、デフォールトによって損失を蒙るのは債権者だけではなく、ギリシャ国民も困るのだから、ギリシャ国民はこれをもっと真剣に受け止めて、ユーロの差し出している再建プランを飲むべきだなどと主張しているが、果たしてそうだろうか。

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