「世界史の実験」(岩波新書)は、柄谷行人の柳田国男論の仕上げのようなものである。柄谷は、若いころ日本文学研究の一環として柳田を論じたことがあり、その後、「遊動論」を書いて、柳田の山人論に焦点を絞った論じ方をしていた。山人というのは、日本列島のそもそもの原住民が、新渡来者によって山中に追いやられた人々のことをいうが、その生き方の遊動性が、狩猟・遊牧民族の生き方によく似ていた。狩猟・遊牧民は、柄谷が素朴な交易の担い手として設定するものであり、いわゆる交換様式Aの担い手である。交換様式Aは、原始的共同体を基盤としており、国家を前提とした交換様式B及び資本主義的な交換様式Cを経て、最終的には交換様式Dとして復活するものと展望されていた。交換様式Dというのは、アソシエーションの自由な結びつきとしての「アソシエーションのアソシエーション」とされる。それは、柄谷なりのコミュニズムを意味していた。そういう文脈の中で柄谷は、柳田を柄谷なりに解釈したコミュニズム=アソシエーショニズムの先駆者として位置付けたわけである。
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