カルペンティエールの小説「失われた足跡」の根本的テーマは、文明と非文明との対比を描くことにあると言ったが、その場合、文明と非文明とは、価値の差とは考えられていない。人間の生き方の相違として捉えられている。ふつう我々文明社会に生きているものは、文明人である自分自身を基準にして、それとは異なる生き方をしているものを、発達の遅れた野蛮人として捉えがちである。じっさいこの小説の主人公も、最初はインディオたちを一段劣った存在として捉えていた。それは、同行者が自分の冒険譚をするとき、「いささかの悪意もなく、ごく自然な調子で、『我々の一行は、三人の<男>と十二人の<インディオ>だった』という言い方をしていた」(牛島信明訳)ことについて、主人公がその奇妙な区別を受け入れていたことにあらわれていた。
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