能「大般若」を見る

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先日(五月二十七日)NHKが梅若実襲名記念能の番組を放映した。梅若実とは梅若六郎家の名跡となっていて、これが四代目だが、先代までは隠居号として用いられてきた。ところが新しくできる四代目は、この名跡で活躍する意向らしい。梅若流は、いまでは観世流に属しているが、もともとは丹波猿楽の古い家元で、明治時代の一時期には、独立した流派を張ったこともあった。六郎家と万三郎家が分流し、六郎家のほうが梅若の本流を継いでいるということらしい。ちなみに筆者は万三郎家筋のシテ方師匠から謡曲をならった。

番組の中で放映された「大般若」は、長らく廃曲となっていたものを、梅若実が六郎時代の昭和58年に復曲したものという。六郎は復曲に熱心なほか新曲にも意欲的に取り組んでいる変わり種である。2014年に人間国宝になった。

「大般若」は、三蔵法師が西域の深沙大王から大般若経を授けられ、大王と共に唐に帰還するさまを描く、というか謡う。三蔵法師は、実は七世にわたってインドへ旅したが、そのたびに深沙大王によって拒まれ命を奪われて来た。しかし八度目の今度こそ、その意気込みを大王から認められ、大般若経を授けられるという筋書きである。

前後に別れ、前半では流砂川にさしかかった三蔵法師の前に男が現れ、これまで七世に渡って三蔵法師が深沙大王に命を奪われて来た経緯について語り、実は自分こそその大王であると告げて消える。

後半では、三蔵法師の前に二人の菩薩や大龍、小龍が現れて三蔵法師を礼拝した後、大般若経を納めた笈を背負って深沙大王が現われる。しかして大王は三蔵法師に経文を語ってきかせ、今後この経と三蔵法師の守護神になろうと約束し、その決意の舞を舞うというものである。

前半の男の面と言い、間狂言の面と言い、また後ジテの般若面と言い、面の見せどころが多い。能が用いる般若面は、この面が原型になっているそうだ。また、西遊記に出て来る沙悟浄は、深沙大王の変形で、彼が首から下げている七つの髑髏は、三蔵が前世で奪われた七つの命を表しているという。

ともあれ、動きが大きく、見どころの多い能であった。






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