映画を語る

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2023年の映画「ソウルの春」は、1979年10月26日に起きた朴正熙暗殺事件(10・26事件)から、全斗煥による粛軍クーデタ(11・12事件)成功までの、韓国現代史の一齣を描く。この時期は二重の意味で重要な意義をもつ。一つは独裁者の死によって一気に民主化の機運が高まったこと。その機運を、チェコでかつて起きたプラハの春にたとえ、ソウルの春と呼んだ。それがこの映画のタイトルになっているわけである。もうひとつは、不在となった権力をめぐり、軍内部に大規模な内紛がおき。それが粛軍クーデタにつながった。そのクーデタの成功で、全斗煥らが権力を握り、軍政の復活をもたらす。

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016年の韓国映画「コクソン(ナ・ホンジン監督)」は、連続不審死事件をテーマにした作品。不審死の原因は最後まではっきりとはしないが、どうやら悪霊の仕業のようである。悪霊が人に取りついて死に追いやるなどという話は、現代の日本人には迷信としか思われないが、隣国の韓国の人はいまでも信じているようである。そんなことを信じるのは馬鹿だと思われるのではないかと案じたのか、日本人にも一枚かましてある。国村隼演じる謎の日本人が、悪霊として村の人々に取りついていると登場人物の誰もが信じるのである。
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パク・チャヌク(朴贊郁)の2000年の映画「JSA」は、朝鮮半島の南北境界線を挟んで北側と南側の兵士が、体制を超えて友情を結ぶさまをテーマにした作品。いささか荒唐無稽さを感じさせるが、2000年前後の韓国は金大中が大統領だったこともあり、南北融和の機運が高まっていたので、こんな映画が作られてもおかしくはなかったともいえる。

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2024年のアメリカ映画「シビル・ウォー アメリカ最後の日(Civil War アレックス・ガーランド監督)」は、近未来におけるアメリカの内戦をテーマにした作品。内戦の原因は、大統領が憲法を無視して三選したことに、一部の州政府が反発して合衆国から離脱、また、カリフォルニア州とテクサス州が西軍を結成し、政府軍との間で戦争が始まった、という設定。一見して荒唐無稽に見えるが、あながちありえない話ではない。アメリカは今や深い分断に直面しており、いつ内乱がはじまってもおかしくないと思っている人は多い。トランプという男が、アメリカをそのように変えた、というメッセージがこの映画からは伝わってくる。

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2023年のアメリカ映画「オッペンハイマー(Oppenheimer クリストファー・ノーラン監督)」は、原爆の父と呼ばれるロバート・オッペンハイマーの生涯を描いた伝記映画である。日本を含め世界中で話題になった。ウクライナ戦争をめぐり、プーチンが核兵器使用を示唆するなど、原爆の危機がせまっているなかで、原爆について人々に考えさせるものがある、というのが大方の受け止め方だ。要するに、平和の尊さを考えさせる映画だというわけである。しかし、この映画を虚心坦懐に見れば、そういう印象は伝わってこない。かえって原爆は基本的にはよいものであり、それを開発したオッペンハイマーは賞賛されるべきだというようなメッセージが伝わってくる。

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2021年のアメリカ映画「コーダあいのうた(CODA シアン・ヘダー監督)」は、両親と兄が聾者という家族とともに暮らす少女の物語。家族は漁を生業としており、少女も夜明け前に起きて船に乗っている。彼女は高校三年生で、学校ではコーラス部に入っている。コーラスの指導教員が、彼女の才能に注目し、バークリー音楽大学を目指せという。しかし、彼女は家族にとって不可欠な存在。自分勝手な行動は出来ないと悩むが、両親が彼女の意思を尊重して入学試験を受けさせる。彼女が歌うのを家族は聞くことができない。だが彼女が合格すると喜ぶのだ。彼女が住んでいる港町はグロスターのようだから、バークリーのあるボストンの近くだ。なんとか通えるのではないか。

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2017年のアメリカ映画「ワンダーウーマンとマーストン教授の秘密(Professor Marston and the Wonder Women アンジェラ・ロビンソン監督)」は、アメリカの人気漫画「ワンダーウーマン」の作者をフィーチャーした作品。作者のマーストンは大学の心理学の教授で、妻とともにウソ発見器の研究などをしていた。そこに一人の女子学生が助手として加わる。その学生オリーヴにマーストンは性的関心を抱く。また妻のほうも彼女に同性愛を感じる。オリーヴはそんな夫妻のいずれともセックスをする。妻も夫とのセックスをやめない。つまり男女が三つ巴の乱婚状態になる。その結果妻とオリーヴが同時に妊娠する。

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1966年から1973年にかけて、アメリカのテレビシリーズ「スパイ大作戦」が人気を博した。日本のテレビでも放映され、小生も見たことがある。テーマ音楽はいまでも流されている。そのシリーズを映画化したのが「ミッション・インポッシブル」だ。これはテレビで放送されたものからエッセンスを抜き取ったもので、これまで8作が制作されたという。第一作目は「ミッション・インポッシブル(Mission: Impossible)」と題して1996年に公開された。

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2003年のカナダ映画「アララトの聖母(Ararat)」は、1915年に起きたトルコによるアルメニア人の大虐殺をテーマにした作品。この大虐殺はのちにジェノサイドの原型的なケースと言われるようになり、また特定の民族の消滅を狙ったことから民族浄化の原型とも言われる。だが、当事者のトルコ政府はその事実をかたくなに否定し、事件の記憶が次第に薄くなっていくことで、歴史から抹殺されてしまうのではないかとの危機感が、アルメニア系住民の間に高まってきた。この映画は、カナダ映画ではあるが、アルメニア系の人々が、このジェノサイドの記憶を後世に伝えることを目的に作ったというふうにアナウンスされる。だがジェノサイドの史実に焦点をあてるのではなく、それと並行して、映画監督とか、アルメニアの歴史の研究者だとか、その息子、そして息子と奇妙な時間を共有する税務官吏などが出てきて、それぞれの個人的な事情を披露したりする。そうした個人的な事情は、ジェノサイドを考える上では全く関係がないと思えるので、映画の構成をだらけたものにしている。

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ラース・フォン・トリアーの2018年公開の映画「ハウス・ジャック・ビルト(The House That Jack Built)」は、シリアル・キラー(連続殺人摩)の長年にわたる殺人行為を描いた作品。人を殺すことが自己目的化した精神異常者の話である。精神異常ということを汲んでも、数十人にのぼる数の人間を無残なやりかたで殺し続け、それに快楽を感じると言うのは、まことに異常な話である。その異常さをフォン・トリアーはたいして疑問に思っていないらしい。むしろ暴力礼賛的な傾向を感じさせる。見る人によっては、嘔吐感にさいなまれるだろう。

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「ニンフォマニアック」VOLⅡは、第六章から第八章までの三章からなる。導入部で女性の12歳の時の体験が語られる。その女性はオーガズムを覚えたあと、性感を失った。その際に二人の女性の幻を見る。それらを女性は聖母マリアなどに関連付けるが、セリグマンは色情狂に違いないと言う。そんな男に、女性は女性体験がない人にはわからないと答える。セリグマンは、自分には男性体験もないと言う。また、壁にかかっていたイコンがきっかけで、東方教会と西方教会の相違が論じられる。西方教会は苦痛を原理としているが、東方協会は愛を原理としている。

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ラース・フォン・トリアーの2013年の映画「ニンフォマニアック(Nymphomaniac)」は、色情狂を自認する女の生き方を描いた作品。二部構成になっており、劇場版では計4時間、ディレクターズ・カット版では5時間という長さである。トリアーの他の作品同様章立てになっており、全八章からなる。各章は相互に独立した物語になっている。

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ラース・フォン・トリアーの2011年の映画「メランコリア(Melancholia)」は、巨大彗星(映画では惑星と言っている)が地球に衝突する恐怖を描いた作品。それに心を病んだ女とその姉の関係がからむ。二部構成になっていて、前半は妹のジャスティン(キルスティン・ダンスト)を中心に、後半は姉のクレア(シャルロット・ゲンズブール)を中心に描く。タイトルのメランコリアとは、彗星の名である。

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ラース・フォン・トリアーの2009年の映画「アンチ・クライスト(Antichrist)」は、子どもを死なせた女の心の病とその夫との不幸な関係を描いた作品。この女はもともと心を病んでいたらしいのだが、子どもを死なせたことで病が悪化、狂乱状態になる。それを夫が治療しにかかる。夫はフロイト派のセラピストなのだ。ところが治療は全く功を奏しない。女はうつ病というようなものではなく、幻聴の症状などからして統合失調症と思われる。統合失調症に精神分析はきかない。フロイトがこの映画をみたら、お門違いのことを描いていると思うだろう。それにしてもタイトルの「アンチ・クライスト」は何を意味しているのか。この夫妻のことを、とくに妻のことを、日本人なら心を病んでいるというところだが、デンマーク人はキリストに背いていると捉えるのか。

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ラース・フォン・トリアーの2005年の映画「マンダレイ(Manderlay)」は、「ドッグヴィル」の続編という触れ込みだが、それにしては連続性がはっきりしない。主役のグレースを演じている女優が別人だということは抜きにしても、そのグレース(ブライス・ダラス・ハワード)の身分が曖昧である。「ドッグヴィル」ではギャングに追われているということになっていたのに、こちらではギャングの一味になっている。父親がギャングのボスなのだ。そのギャング団と一緒に南部を旅しているうちに、アラバマのマンダレイというところを通りがかる。そこのある農園で、黒人がむち打ちにされそうになっているところを、グレースがとめる。色々聞いているうちに、この農園で働いている黒人たちは、奴隷だということがわかる。奴隷制は70年前に廃止され、いまでは違法である。70年前というのは、この映画の時代設定が1930年代前半になっているからである。

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ラース・フォン・トリアーの2003年の映画「ドッグヴィル(Dogville)」は、よそ者に対して過酷な行動をする田舎者を描いた作品。ロッキー山地の小さな町を舞台に、そこにやってきた一人の女性を、町民たちがよってたかっていじめるという陰惨な内容の作品である。表面的には、よそ者へのいじめのように見えるが、アメリカへやってきた移民の境遇を思わせるように作られている。アメリカは移民の力を使って繫栄してきたが、その移民に対してフェアではない、といったメッセージを読み取ることができる。

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ラース・フォン・トリアーの2001年の映画「イディオッツ(The Idiots)」は、タイトルどおり白痴を描いた作品。白痴という言葉は、いまでは差別用語とされており、公の場で使うことはタブー扱いである。トリアーがこの映画を作った時にもすでにそうだったと思うのだが、かれは差別意識を表出することについては無神経なところがあるので、たいして気にせずに知的障害者を侮蔑するこの言葉を、平気で使ったのであろう。

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ラース・フォン・トリアーの1996年の映画「奇跡の海(Breaking the Waves)」は、知恵遅れの女性の愛と信仰を描いた作品。デンマーク映画ではあるが、スコットランドを舞台にして、英語をしゃべる人びとの物語である。北海で油田を掘る男が、小さな町に住む女性と結婚。その男は、事故で不能になったあとも、妻を性的快楽の手段として利用する。妻は、智慧が遅れていることもあり、夫のマインドコントロールを受けた上に、自滅するというような内容である。

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1993年のドイツ映画「スターリングラード(Stalingrad)」は、独ソ戦最大の山場スターリングラードの攻防を、ドイツ側の視点から描いた作品。この攻防をソ連が制したことによって、独ソ戦はソ連の勝利に向かって進み、やがてナチスドイツの無条件降伏をもたらす。この攻防は、ドイツ側が85万人、ソ連側が120万人の戦死者を出し、60万人いた住民が1万人以下になるなど、凄惨を窮めたものであった。この映画は、その攻防戦に投入されたある部隊の戦いぶりを描く。

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2016年のオーストリア映画「エゴン・シーレ死と乙女(Egon Schiele: Tod und Mädchen ディーター・バルナー監督)」は、数奇な生き方で知られるオーストリア人画家エゴン・シーレの半生を描いた作品。シーレは28歳の若さでスペイン風邪にかかって死ぬのだが、映画は冒頭で彼の臨終の場面をうつし、そこから20歳の時点まで遡るという構成をとる。その八年間に、彼の身に起きた事柄を追っていくのである。

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