詩人の魂

ヘンリー・ミラーにランボー論があるのを知ったのは、ジル・ドゥルーズを通じてであった。ドゥルーズは初期の主要な著作「差異と反復」の中で、ミラーのランボー論を卓越した研究だと褒めていたのだった。そこで、ランボーの熱烈なファンである小生としては、読まないという選択はなかった。早速アマゾンを通じて取り寄せ、読んだ次第。読んでの印象は、いささかがっかりさせらるものではあった。というのも、ミラーといえば、セックスの伝道者としてのイメージが強く、ランボーについてもセックスの視点から解剖してくれると思っていたのが、意外と常識的な立論になっているからだ。

コクトーの八つの歌から「アンリ・ルソーの肖像(Portrait d'Henri Rousseau)」(壺齋散人訳)

  アロエとシジュウカラが
  おめかしをしている

  巨大な羽根の天使たちが
  エッフェル塔のまわりを飛んでる

  飛行船共和国号
  黒人がパイプをふかす
  丘の上で笛を鳴らしながら
  もうひとりの名はジャン・ジャック
  複葉機太陽号 復活祭の鐘

  すてきな日曜日だった
  見世物小屋には獣たちがいたっけ
  ジャングルや都会の獣たち
  ライオンと白い馬は
  まったくよく似ていたよ

  シジュウカラがいった<共和国万歳!>

コクトーの八つの歌から「複葉機 朝(Biplan le matin)」(壺齋散人訳)

  飛行機の音は降下するにつれて弱まる
  夜明けの空の音 独楽
  そしてオリオンが転調する
  生きる衝動に満ちた朝に
  騒々しい私の庭で
  バケツをかき混ぜると深い音がした

  犬はじゃれつき
  丈夫な翼の大天使は聖母マリヤを訪れる
  セーヌのほとり
  群衆 菫色の霧 天気は上々
  将軍
  ピコン ビル プティ・ジュルナル
  セーヌは流れ 癒してくれる
  墓のように冷たい橋の渇きを

  頭を高く高く持ち上げてごらん
  天国のオルガンが見えるから

コクトーの八つの歌から「マリー・ローランサン(Marie Laurencin)」(壺齋散人訳)

  フォーヴとキュビストたちの間で
  小さな雌鹿が罠にかかった

  芝生と貧血で
  友達の鼻が青白くなる

  フランス 娘たちの国

  クララ・デレブーズ
  ソフィー・フィチーニ

  もうすぐ戦争が終わる
  そうしたらおとなしい家畜たちが
  君の扇の上で跳ねるだろう

  フランス万歳!
コクトーの八つの歌から「アンヴァリード広場(Place des Invalides)」(壺齋散人訳)

  神がうつろな天空で猫なで声をあげる
  オンファールの糸車 諸国民
  輝かしい装飾の回復
  アンヴァリード広場

  黄金のドーム
  勘定が迫る 雲の請求書
  三色のリボン飾り

  簗みたいに宙吊りになったエッフェル塔
  それが黙ったまま
  世界中の電報をキャッチする

コクトーの八つの歌から「アグラエ(Aglaé)」(壺齋散人訳)

  冷たい水をぐびぐびとわたしは飲む
  もういちど短剣のひとつきをわたしは飲む
  重い重いかたまりが
  暗黒の体内を疾走する

  水柱がちょろちょろと盛り上がり
  ベゴニアのかたまりのようなしぶきをあげる
  そのかたちはまるで草のなかにいる
  塗れたざりがにのよう

  海の底の方で
  綺麗な鰓をした二匹の魚が
  白い木の上で歌ってるけど
  だれもそれを聞いていない

  アンフィトリスには会えないと思うわ
  鱒たちのこの陽気な行列には

コクトーの八つの歌から「仕官学校(École de guerre)」(壺齋散人訳)

  人生は何て退屈なんだ
  この朝の5時半に
  毛布にくるまってるなんて

  伝染性のラッパの音が
  兵営中に鳴り渡る
  まるで疫病のように

  この青銅の雄鶏の悲しげなことよ
  天使が自転車をこいで
  まぐさの中から飛び出してきて
  膨大な電報を運んでいくよ

  しゃがれたラッパの音が
  この巨大な建物に反響する
  起きなよ 寒いけど
  観覧車に乗ってる旅人たちよ

コクトーの八つの歌から「目覚め(Réveil)」(壺齋散人訳)

  ライオンたちの厳かな口
  若ワニたちのしとやかな笑い
  なにもかも流し去る
  川の流れ
  スパイスの島々

  このすてきな男の子は
  やもめの女王と
  船乗りの子どもだ

  船乗りがサイレンを置いていった
  そのさびしいうなり声が
  島の南にひびく

  それは兵営の中庭に鳴り渡るラッパだ
  短すぎる夢だったよ
  消えそこなったランタンのような夜明け

  さあ 起きよう
  ぼろぼろのファンファーレだ
コクトーの八つの歌から「エリック・サティへのオマージュ(Hommage à Eric Satie)」(壺齋散人訳)

  アンリ・ルソー夫人が
  気球で空に上って行く
  手に灌木を抱えながら
  いっぽう税官吏のルソー氏は
  アペリティフを飲んでいる

  月で膨らんだアロエも
  安楽椅子用の木材も
  きれいなおべべも
  お月さんも
  みんな葉っぱの上に見える

  アフリカライオンが
  ズタ袋みたいなお腹をして
  共和国像の足元を守る
  アフリカライオンが
  馬車馬をたいらげる

  黒人の吹くフルートの中に
  お月様が吸い込まれていく
  ヤドヴィガがとろりとして聞いている
  黒人がフルートの先から
  なしの形を吐き出す

詩作を放棄した後のアルチュール・ランボーの半生の足取りについて、鈴村和成著「ランボー、砂漠を行く」をもとに整理してみた。

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筆者にとってのアルチュール・ランボーは、少年詩人としてのランボーだった。彼がまだ十代の若さで詩を作ることをやめ、忽然と姿をくらました後のことについては、殆ど何も知らなかった。三十七歳になった彼が、マルセーユの病院で片足を切断され、それから間もなく死んだということは知っていたが、彼が詩を捨ててから命を失うまでの間に、どんな生き方をしていたかは、ほとんど知らなかったのだ。

 あれからもう、六年がたった。このことはまだ、誰にも話したことがないんだ。友達は僕が戻ってきたことを喜んでくれたよ。僕は、悲しかったけれど、友達には「疲れた」って、いってたんだ。
「もう一度、君の笑い声を聞きたい」と僕がいうと、王子は答えて言った。
「今夜で、ちょうど一年なんだ。今夜はぼくの星が、ぼくが地球に落ちてきた場所の真上にくるんだ。
「ねえ、蛇のことも、待ち合わせのことも、星のことも、夢の中の出来事なんじゃない?」
 王子は、この質問には直接答えないで、こう言った。
「大事なことは、目では見えないんだ」

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 井戸のそばに、石でできた古い壁の廃墟があったんだ。次の日の夕方、飛行機のところから戻ってくると、王子がその壁の上に、脚を垂らして座ってるのが見えた。何かを話してるみたいだった。
「覚えてないの?」と王子は言った。「ここじゃ、ないよ」
 誰かが答えたようだった。王子はそれに反論したんだ。
「わたったよ、その日だってことは。でも、それはここでじゃないんだ」

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「人間て」と王子は言った。「列車に乗り込んでも、何を探しにいくのか、わかってないんだ。ただ無闇に、騒ぎ回ってるだけなんだ」
 そうして、こう付け加えた。
「てんで、無意味だよ・・・」

 こうして、飛行機の修理をしながら八日たった。その日、商人の話を聞きながら、僕は持っていた水の最後の一滴を飲み干したんだ。
「こんにちは」と王子は言った。
「こんんちは」と商人が言った。
 その商人は、喉の渇きを静める錠剤を売っていたのだった。それを週に一錠飲むと、水を飲む必要がなくなるのだった。
「こんにちは」と王子は言った。
「こんにちは」と転轍手が答えた。
「ここで何をしてるの?」
「旅人達の行先を、千人単位で選んであげてるのさ」と転轍手は答えた。「旅人達を乗せてる列車の方角を、右にしたり、左にしたりしてね」
 次の日、二人はまた会った。
「どうせなら、同じ時間にあったほうが良かったね」と狐は言った。「たとえば、君が午後の4時に来ることがわかっていたら、三時から僕は嬉しくなり出すだろう。時間が四時に近づくにつれて、僕のうれしい気持ちは強くなる。四時になるとぼくは、そわそわして、飛びあがるかも。そんな儀式が必要だよ」
「儀式って何?」と王子は言った。
「それも、忘れられてしまったことだけど」と狐は言った。「それは、一日を他の一日から、一時間を他の一時間から、区別させるものなんだ。たとえば、ハンターにも儀式があるとするよ。ハンターたちは、毎週木曜日に、村娘とダンスする習わしになっている。だとすれば、木曜日は特別の日だ。その日には僕は、ブドウ畑まで安心して散歩できる。もしダンスをする日が決まってなければ、それぞれの日には違いがなくなり、僕も安心して休めなくなる」

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 ちびっこ王子が狐と出会ったのは、その時だったんだ。
「こんにちは」 と狐がいった。
「こんにちは」 と王子は丁寧に返事して、後ろを振り返ったけれど、なにも見えなかった。
「ここだよ、リンゴの木の下だよ」と狐はいった。
「誰だい、君は」と王子はいった。「とってもかわいいけど」 
「狐だよ」と狐はいった。
「こっちへ来て、いっしょに遊ぼうよ」と王子は狐に言いかけた。「ぼく、とても悲しいんだ」 
「君と遊ぶわけにはいかないよ」と狐は言った。「人間と仲良くすることはできないから」 
「そう、ごめんね」と王子はいったけど、しばらく考えた後で、「<仲良くする>って、どういう意味?」と付け加えた。

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