日本の政治と社会

雑誌「世界」の最新号(2024年3月号)が「さよなら自民党」と題する特集を組んでいる。今大騒ぎになっている自民党各派閥の裏金問題が、自民党にとってどんな問題を投げかけているのかを批判的に検証するような内容である。最も迫力を感じたのは、佐々木毅と山口二郎の対談。「90年代政治改革とは何だったのか」と題するこの対談のなかで、佐々木は、30年前にも同じような不祥事(リクルート事件)が起き、そのために政治改革をやったはずなのに、その改革の理念がちっとも実現せずに、またぞろ同じような不祥事が起きたと言って、自分たちの対談が失われた三十年を地で行くようなものになるんじゃないかと「恐れている」と言う。

日本のGDPがドイツのそれに抜かれ、今までの三位から四位に転落したそうだ。その原因は対米為替レートで円安になったためで、名目上の比率ではドイツに抜かれたが、実質的にはそんなに悲観することではないという意見もあるようだが、円安を含めて日本の経済力が弱まっていることを反映したものだととらえるのが自然なことであろう。

大川原化工機冤罪事件については、小生は雑誌「世界」の最新号(2024年1月号)に寄せられた文章「大川原化工機『冤罪』事件の深層」(石原大史)によって知った。これは事件を取材したNHK記者によるもので、警視庁公安部による恣意的な犯罪捜査を厳しく批判したものであった。事件の概要と批判の内容については、当該文章にゆずるとして、その事件をめぐって起こされていた損害賠償請求訴訟の一審判決が12月27日に東京地裁で出されるというので、それを注目していた。地裁は、国(検察庁)と都(警視庁」の責任を認め、賠償を命じる判決を出したそうだ。賠償額は国が約1億5800万円、都は約1億6200万円である。

岩波の雑誌「世界」の最新号(2024年1月号)の第二特集は「ディストピア・ジャパン」である。岩波が出版した「日没」の作者桐野夏生へのインタビューを含んでいるので、おそらくこの特集がイメージしているディストピアとは桐野の問題意識につながるのであろう。その桐野は、自分の小説が「反社会的」と受け取られている風潮に危うさを感じているという。そうした風潮は一般の国民たちによって担われており、それを権力が利用するとディストピアが実現してしまう怖さがある。コロナがそうした風潮を後押しした。自粛警察とかマスク警察といった現象は、国民による下からの検閲だ。国民の間に広がるこうした不寛容さに、桐野は日本人の本質を見た気がするという。

国策の半導体企業として岸田政権が前のめりになっいるラピダス。政府はその育成に1兆円を投じる方針だそうだ。名目は経済安保というので、反対する者はいない。だが、果たして成功するかどうかについては、懐疑的な見方が多いようだ。半導体産業は、一時は日本が世界をリードしていたこともあって、政府はその復活に執念を持ち、電器産業を結集してエルピーダを立ち上げた経緯があるが、失敗に終わった。今回もその轍を踏むのではないかと危ぶむ見方が多いのだ。

国民民主党が立憲民主党の挨拶を断るなど、距離を置く姿勢を強めている。立憲側は、次の衆議院選挙に向けて野党の連係を模索し、その一環として党首対話を呼びかけたのだが、国民側からそれを拒絶した。理由は、立憲が共産党との連携に前向きな姿勢を見せていることだ。国民は反共が党是のようなので、共産党と連係しようとする党とは一緒に行動できないということらしい。

雑誌「世界」の最新号(2023年11月号)が、「大阪とデモクラシー」と題する特集を組み、七本の小文を掲載している。大阪とデモクラシーの関係といえば、維新の会のことが真っ先に思い浮かぶが、この特集は、維新をとりげたもののほかに、万博問題とか子供の本のこととか、結構幅広くカバーしている。

雑誌「世界」の最新号(2023年11月号)が、「劣化したリーダーはなぜ増えたのか?」と題して、辻野晃一郎と立石泰則の対談を掲載している。辻野はソニー出身の実業家、立石は実業界を取材するジャーナリストだそうだ。それぞれの立場から、今の日本のリーダーの劣化ぶりを指摘している。どちらも実業界とその周辺に身を置いているから、勢い実業界のリーダーを話題に取り上げる。かれらによれば、実業界のリーダーの劣化は、なににもまして日本の劣化ぶりを物語っているということらしい。

沖縄県辺野古の埋め立て工事についての知事の認可をめぐって、先の最高裁判決をうけて国側が知事に対して認可の「勧告」をしたところ、知事がそれに従う姿勢を見せないとして、今度は「指示」に切り替えた。指示にも従わねば、次は国による代執行の手続きに入る意向ということらしい。代執行というのは、この場合、国の国土交通大臣が知事に代わって認可を行うということだ。

ウクライナ戦争をめぐって、日本でも様々な言説が飛び交っている。とりわけ防衛省関係の実務家が発する言説は、NHKをはじめ様々なディアで花形扱いの観を呈し、かれらの発する日米同盟堅持と日本の防衛力増強というメッセージが、いまや議論の基本的な前提のようになってしまっている。そういう風潮のなかで、小泉悠は比較的無色な立場をとろうとしているように見える。だが、今回彼が、雑誌「世界」の最新号(2023年10月号)に寄せた小文を読むと、彼もまた基本的には、防衛省の実務家と同じような立場に立っていることを、みずから認めているようである。だから防衛省的な見方はいまや、日本の安全保障論の標準になっていると受け取れる。

辺野古埋め立てをめぐる裁判で、最高裁が沖縄県の上告を退け、国側の言い分を一方的に飲み込む判決を出したことで、この問題はほぼ国側の意向にそって決着する見込みとなった。政府としては言い分が通って万々歳というところだろうが、日本のためには決してそうは言えない。なぜなら最高裁は、地方自治法の規定を恣意的に解釈して、実に政治的な判断をしたからであり、その政治的な判断は、一見日本政府に忖度しているように見えて、実はアメリカ政府の意向を踏まえたものだからだ。これでは、最高裁は日本国と日本国民のために存在するのではなく、ホワイトハウス(アメリカ政府)のために存在するということになる。最高裁は日本の国権を担う機関ではなく、ホワイトハウスの出先機関として、アメリカの利益を支えるための機関だというべきである。

日本が福島汚染水を海洋放出したことへの反応として、中国が日本の水産物の全面禁輸に踏み切ったことで、大変な騒ぎになっている。水産物を所管する農水大臣などは、中国がそこまでやるとは予想していなかったなどと馬鹿なことをいうありさまだ。本気でそう思っているなら、本物の馬鹿者というほかはない。岸田首相までが中国は科学的に振る舞えなどとわけのわからないことを言う始末だ。岸田首相がどんなに中国に批判めいたことを言っても、中国にとっては馬耳東風だろう。まして日本のメディアが、馬鹿の一つ覚えのように、中国は冷静に振る舞えと叫んでも、何を言っているのかと馬鹿にするばかりだろう。

岸田政権は、イギリス及びイタリアと共同開発する予定の戦闘機を、外国に輸出する方針を決めたそうだ。それとあわせ、殺傷能力のある武器を外国に輸出することも考えているようだ。もしそれが実現すれば、日本は従来の平和主義の政策を捨てて、欧米並みの軍事産業国家になることであろう。

岸田政権が、福島の汚染水を24日から海洋放出するよう決定したそうだ。21日に行った漁業関係者との面談で、一定の理解が得られたからというのがその理由だ。日本政府はこれまで、「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」と約束してきたので、なんとかして関係者つまり漁業団体の理解を得たいと願ってきたわけだが、21日の面談では、漁業関係者は「反対変わらぬ」と明言しているので、さすがの岸田首相も、十分な理解を得たとは言えなかった。それでも、一定の理解を得たとして、今回の決定に踏み切ったわけだ。漁業関係者としては、なかなか納得できないところだろうが、しかしお上の意向には逆らえず、また、漁業補償を含めた対策の予算措置をちゃんとやってもらいたいと言ったようだから、なんでも反対ということではないらしい。いかにも日本的な決着の付け方である。

山口県の上関町が、使用済み核燃料の中間処理施設の建設に事実上同意した。いまのところ、施設建設に向けた調査を受け入れたということらしいが、建設を前提としない調査などありえないので、事実上建設を受け入れたといってよい。なぜそんな決断をしたのか。町長はじめ推進派は、町の持続可能な存続のためには、ほかに選択肢はなかったといっているが、果たしてそうか、という疑問はある。だが、何といっても町の当事者が自主的に判断したことなので、第三者があれこれ言うことはないかもしれない。

雑誌「世界」の最新号(2023年9月号)が、「台湾有事と日米中関係」という小見出しで、最近のあやうい日中関係について言及した小文を三つ載せている。いずれも、いわゆる台湾有事は、中国の強い国家意志から考えて不可避だと前提したうえで、日本としてそれにどう対応すべきかについて、論じたものである。

対中敵視の雰囲気が強まる風潮に乗じる形で、台湾マフィアというべき、台湾に利権を持つ連中が、中国を挑発する動きを見せている。このたびは、自民党副総裁の麻生太郎が台湾をおとずれ、台湾有事の際には、日本も一緒に戦うから台湾も戦うつもりになれ、と叱咤したそうだ。これに対して中国側は、当然のことながら、強く反発した。今の中国は、日清戦争の時代とは違うから、下関条約を再度押し付けられることには甘んじないと言って、いざという場合には、日本と戦う用意があるといった。つまり中国は、日本が台湾をとるつもりだと受け取っているわけである。

広島で行われた被爆78年目を記念した式典で、広島市長が、先のG7で確認された「核抑止有効論」を批判して、「世界中の指導者は核抑止論は破綻していることを直視すべきだ」といったそうだ。そのうえで、核廃絶を強く訴えたという。

中国電力と関西電力が共同で、原発の使用済み核燃料(放射能汚染物)の中間貯蔵施設を山口県の上関町に建設する方針を打ち出し、町役場に協力を求めたということだ。町では、最終的な決定には至っていないが、頭から拒否するのではなく、場合によっては受け入れる意向をもっているそうだ。町民の総意で受け入れるということなら、第三者がどうのこうのいうことではないかもしれぬが、住民の間には意見の相違もあって、町ぐるみ受け入れ賛成ということにはならないようである。

雑誌「世界」の最新号(2023年8月号)が、「安倍政治の決算」と題する特集を組んで、十数本の論文を集中掲載している。それを通読しての印象は、論者たちが安倍政治を「決算」しきれていないということだった。安倍政治の残した日本の情ない状態を前に、それを嘆く声は聞こえても、安倍政治の遺産を清算して、望ましい日本の未来を展望しようとする意欲を感じさせるものはなかった。それはおそらく、安倍政治がこの国をめちゃくちゃにした振舞いを見て、そのすさまじさにただただたじろくだけといった、いささかみじめな状態に、論者たちがおかれた状況を感じさせるテイのものだ。

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