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ヨハン・ハルムスは妻エディットの父、シーレにとっては義父である。ヨハンは、娘がシーレと結婚することに反対だった。少女にヌードのモデルをさせたり、ふしだらな生活ぶりに呆れていたからだ。だが、娘は強引に結婚してしまった。シーレがこの義父とどんな関係だったかは、よくわからない。しかし肖像画のモデルになってもらったくらいだから、ある程度は親しくしていたのだろう。

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「グリーン・ストッキングズを履いて横たわるの女(Liegende Frau mit grünen Strümpfen)」と題されたこの絵は、エディットの妹アデーレをモデルにしている。ワリーを失ったシーレは、気の知れた、しかもエロチックな雰囲気をもったモデルがいなくなった。そこで、エディットよりはるかにエロチシズムを感じさせるアデーレをモデルにするようになった。アデーレもシーレの望みに応えた。

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シーレは1915年6月に結婚した。相手はウィーンのヒーツィンガー通りのかれのアトリエの向かい側に住んでいた中産階級の娘エディット・ハルムスだった。エディットにはアデーレという妹がいて、かれは姉妹の両方と深い付き合いをしたようだが。姉のエディットを妻に選んだ。そのことでワリーとの関係は終わった。
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「死と乙女(Tod und Mädchen)と題されたこの絵は、シーレとワリーをモデルとした作品の最後のものである。死神がシーレ、乙女はワリーをあらわしている。この絵の中のシーレは、ワリーにとって死神なのである。というのも、シーレは知り合ったばかりのエディットが気に入り、彼女と結婚する気になった。そこでワリーに事情を告げると、ワリーは絶望的な気持ちになった。この絵は、絶望するワリーと、死神のように残酷なシーレ自身の表情を描きだしている。

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シーレには、レズビアンをモチーフにした作品がいくつかある。だいたいエロチックな雰囲気のものだが、「絡み合って横たわる二人の少女(Zwei Mädchen in verschränkter Stellung liegend)」と題されたこの絵は、あまりそうした雰囲気を感じさせない。そのかわり、右手の女性を盲目に描くことで、別の雰囲気を持ち込んでいる。シーレがなぜこの女性を盲目にしたのか、その理由はわからない。

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「聖家族(Heilige Familie)」と題されたこの絵は、シーレとワリーをモデルにしており、二人には子供がいるように描かれている。しかし、ワリーが子供を産んだと事実はない。だからこの絵のモチーフは、シーレが勝手に想像したものである。なぜそんな想像をしたのか、よくはわからない。

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「闘士(Kämpfer)」と題されたこの絵は、シーレの自画像である。シーレは裸体の自画像を描くのが好きだった。自分の性器をいじっているポーズのものが有名だが、この自画像は自身を闘士に見立てている。

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「枢機卿と尼僧(Kardinal und Nonne)」と題されたこの絵は、シーレのカトリックへの反感を表現した作品といわれる。シーレは、クルマウでの迫害を経て、ノイレングバッハでは警察に拘留されたのだが、それは近隣住民の反発を受けたものだった。近隣住民は、シーレが未成年者にポルノまがいのことをさせていると言って糾弾したのだった。それがシーレにとっては、カトリックによる芸術の弾圧として受け取れた。オーストリアはカトリックの多い国柄で、性的なことについては非常に敏感である。まして子どもを巻き込む行動は許しがたいものであった。



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エゴン・シーレは、1912年4月13日に、児童をポルノグラフィのモデルにした罪状で刑務所に入れられた。その直後から、拘禁されている自分のイメージを描き始めた。拘禁中の自画像はかなりの数にのぼる。いすれも紙に鉛筆と水彩絵の具で描いている。それらは「囚人としての自画像(Selbstbildnis als Gefangener)と呼ばれている。

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「隠者たち(Die Einsiedler)」と題されたこの絵は、ドッペルゲンガー・シリーズの延長上の作品であろう。シーレ自身と思われる人物に、かれの分身が密着している。画面左手の人物がシーレであるが、その姿は「頭を下げた自画像」におけるシーレの自我像をそのまま流用している。

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「頭を下げた自画像(Selbstbildnis mit gesenktem Kopf)」と題されたこの絵は、とかく常軌を外れたイメージのシーレの自画像のうちでも、グロテスクの度合いが強いものだ。ぼさぼさ頭で口ひげを蓄えたシーレは、頭をやや下げた形で、するどい眼光を発している。その眼光は、三日月型の白目によって強調されている。観客はその眼光にとらわれて、シーレが顔の前に突き出した右手にあまり留意しない。その右手は奇妙な様子に指をひろげ、モデルの精神状態の異常さを暗示している。

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エゴン・シーレがワールブルガ・ノイツィルと出会ったのは1911年のこと。当時シーレは21歳、ノイツィルは17歳だった。ノイツィルはもともとクリムトの妾のような存在だったらしい。以後1915年までの4年間、シーレの恋人兼モデルとして一緒に過ごした。シーレは彼女をヴァリーと呼んだ。ヴァリーは数多くのポルノグラフィックな作品のモデルを務めている。

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「ほおずきのある自画像(Selbstbildnis mit Lampionfrüchten)」と題されたこの絵は、構図的には「黒い陶器の壺のある自画像」とよく似ている。こちらには黒い壺に擬したシーレの分身はいない。そのかわり、ほおずきの実が一層大きく表現されている。

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「黒い陶器の壺のある自画像(Selbstbildnis mit schwarzer Vase)」と題されたこの絵は、当時シーレが熱中していたドッペルゲンガーをモチーフにした作品。シーレの顔が左手を向いている一方で、その顔の後ろ側に置かれている黒い壺は、よくよく見ると人間の顔の横顔になっている。ドッペルゲンガーを描いたものとしてはやや変則であるが、顔が二つある男を描くことでシーレは、自分自身の二重人格を表現しているわけである。

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クルマウを追われたシーレは、ヴァリーを連れてウィーン郊外の田舎町ノイレングバッハに移り住んだ。「ノイレングバッハの画家の部屋(Das Zimmer des Künstlers in Neulengbach)」と題されたこの絵は、かれらが暮らした部屋を描いたものである。シーレはこの絵を、ゴッホの「アルルのゴッホの部屋」に触発されて描いた。その絵をシーレは、1909年の「クンストシャウ」で見ていた。

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1911年5月、シーレは恋人のヴァリーとともにウィーン西郊の町クルマウに移り住んだ。この町は、母親の生地であり、落ち着いた雰囲気の古い町であった。この町を気に入ったシーレは、町をモチーフにした一連の風変わりな風景画を制作した。「死せる町Ⅲ(Tote Stadt Ⅲ)」と題されたこの絵は、シリーズの中でもっとも有名な作品。

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エゴン・シーレには死への強いこだわりがあった。上の姉と父の死がその傾向をもたらしたのだと思う。かれの一連のドッペルゲンガー・シリーズの作品もまた、ドッペルゲンガーを死神と捉えることができる。いつも死神に取りつかれている人間としてシーレは自己認識していたのである。

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1910年から翌年にかけてシーレは、二重自画像というべきシリーズを手掛けている。これは自分自身とそのコピーである像との関係をテーマにしたもの。コピーである自分が本来の自分を観察しているさまを描いたものだ。まず、「自己観察者Ⅰ」を制作し、続いて「預言者たち」「自己観察者Ⅱ」という具合に、発展させた。どの作品も、本来の自分がコピーである自分から観察されている。その観察という行為にシーレは精神的な要素を盛り込みたいと考えたようである。

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エドゥアルト・コスマク(Eduard Kosmak)は、前衛的なデザイン誌の編集者。シーレはアルトゥール・レスラーを介してコスマクと知り合った。この作品は、コスマクの注文を受けて制作したもの。コスマクはシーレの描いたレスラーの肖像画に感心して、自分自身の肖像画をシーレに注文したのだった。

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アルトゥール・レスラー(Arthur Roessler)は画商を営む美術評論家で、1909年の「新芸術集団」の展覧会に批評を寄せたことで、シーレと付き合うようになった。以後かれはシーレにとっての有力な後ろ盾になる。この肖像画は、レスラーの注文に応じて、1910年に制作したものである。

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