英詩と英文学

T.S.エリオットの詩「荒地」から「雷が言ったこと」6(壺齋散人訳)

           俺は岸辺に座って
  釣をしていた 干からびた平原を背にして
  せめて自分の土地くらいは手入れしようか?

  ロンドン橋が落ちまする 落ちまする 落ちまする

  ソシテ彼ハ浄火ノ中へ身ヲカクシタ
  イツ私ハ燕ノヨウニナレルダロウカ~おお燕 燕よ
  崩レタ塔ニイルアキテーヌ公ヨ
  これらの断片で俺はこの廃墟を支えてきたのだ
  お前のいうとおりにしよう ヒエロニモがまた狂った
  ダッタ ダヴァドヴァム ダミャータ

     シャンティ シャンティ シャンティ

T.S.エリオットの詩「荒地」から「雷が言ったこと」5(壺齋散人訳)

  ガンジス川が干上がり
  ひなびた葉っぱが雨を待っていると
  黒い雲が遠くヒマラヤを超えてやってきて
  ジャングルが沈黙のうちにかがみこみ背を丸めるや
  雷がこう叫んだ
  ダー
  ダッタ、捧げよ だが我々は何を捧げたか
  友よ 心臓を揺さぶる血潮だろうか
  あの大胆不敵な一瞬の情欲
  どんな分別も制御できぬ情欲だろうか
  情欲によってのみ我々は生きている
  死亡通知書に乗せられることもなく
  蜘蛛のつむいだ記憶の網にもひっかからず
  痩せた公証人が空っぽの部屋で開く遺言状にも
  記されることのない情欲
  ダー
  ダヤドヴァム、相憐れめ 私はたった一度だけ
  ドアの鍵が回転するのを聞いた
  我々は皆監獄の中で鍵のことを考えるものだ
  鍵のことを考えながら監獄にいることを確認するものだ
  ただ日暮れ時だけに 風聞のささやきが
  倒されたコリオレーナスを一瞬蘇らせる
  ダー
  ダミャータ、己を制せよ 船は
  熟練した船乗りには喜んで従うものだ
  海が穏やかな時には 心も喜んで従うものだ
  招かれるままに 弾み立って
  自分を導く者の手に従うものだ

T.S.エリオットの詩「荒地」から「雷がいったこと」4(壺齋散人訳)

  一人の女が黒髪を引っ張ってぴたっと延ばし
  それを絃の代わりにメロディを紡ぎだした
  ベビーフェースの蝙蝠どもがすみれ色の光の中で
  キャーキャー泣きながらバタバタ羽ばたき
  頭を下に向け黒ずんだ壁を下りて行った  
  空中では塔が逆さまに浮かび
  時を告げる追憶の鐘を鳴らす
  すると空水槽や枯井戸から歌声が聞こえて来た

  山の中のこの崩れた穴で
  かすかな月明かりを浴びて草が歌っている
  朽ち果てた墓の向う側 教会のあるあたり
  その教会は空っぽで 風が吹いているだけで
  窓はなく ドアはきしんでいて
  一羽の雄鶏が棟木の上に停まっている
  こけこっこ こけこっこ
  稲妻が光り 湿った風が
  雨を運んできた
T.S.エリオットの詩「荒地」から「雷がいったこと」3(壺齋散人訳)

  いつも君のそばを歩いているあいつは誰だい?  
  数えてみると僕と君しかいないんだけど
  あの白い道のほうを見上げると
  君のそばにはいつももうひとりいる
  ブラウンのマントに身を包んでフードをつけてる
  男か女かわからないけれど
  君の向う側にいるあいつは誰なんだい?

  空高く聞こえてくるあの音はなんだい?
  母親たちの悲しみのつぶやきかい
  あのフードをつけた一群の人々は誰だい?
  果てしなき荒野を台地の裂け目によろめきつつ進む
  背景をなしているのは地平線だけだ
  あの山の彼方の町はどんな町だい?
  すみれ色の空を背景にして
  裂け目やゆがみや爆発や倒れる塔
  エルサレム アテネ アレクサンドリア
  ウィーンにロンドン
  非現実
T.S.エリオットの詩「荒地」から「雷がいったこと」2(壺齋散人訳)

  ここには水がなく岩ばかりだ
  岩ばかりで水はなく砂の道がある
  山々のあいだをくねくねと続いている道
  その山は水のない岩山なのだ
  水があれば立ちどまって飲むところだが
  岩の間では立ちどまることも考えることも出来ぬ
  汗は乾き 足は砂の中だ
  岩の間に水さえあれば
  奇妙な歯をした口のような死んだ山では唾も吐けぬ
  ここでは立つことも横たわることも座ることも出来ぬ
  山の中には沈黙さえもない
  雨を伴わぬ乾いた不毛な雷がなるだけだ
  山の中には孤独さえもない
  赤い不機嫌な顔が 裂けた泥の家のドアから
  歯をむいてあざ笑うだけだ
        水があって
    岩がなければ
    岩があっても
    水があれば
    そう 水が
    泉があれば
    岩の間にプールがあれば
    せめて水の音さえすれば
    蝉の声でもなく
    乾いた草の音でもなく
    岩を超える水の音があれば
    ツグミが松の枝にとまって鳴くことだろう
    ポトン ポトリ ポトン ポトリ ポトリ ポトリ ポトリ
    でも水がないんだ
T.S.エリオットの詩「荒地」から「雷がいったこと」1(壺齋散人訳)

  汗だらけの顔を赤く照らす松明の後で
  庭園を満たす冷たい沈黙の後で
  岩地での苦悩の後で
  叫び声と泣き声が聞こえ
  牢獄と宮殿 そして春雷の残響が
  遥か山々を超えてこだまする
  生きていた者は今は死に
  生きていた俺たちは今や死につつある
  わずかな忍耐を伴いながら

水死:T.S.エリオット「荒地」

| コメント(0)
T.S.エリオットの詩「荒地」から「水死」(壺齋散人訳)

  フェニキア人のフレバスは 死んでから二週間もたつので
  カモメの鳴き声も 深海のうねりも
  損得勘定も忘れてしまった
     海底の流れが
  ささやきながら彼の骨を拾った
  彼は立ち上がったり倒れたりしながら
  青春のステージを駆け抜け 渦に突っ込んでいったんだ
     キリスト教徒であれ ユダヤ人であれ
  舵をとり風向きをはかる君よ
  かつては君と同じようにハンサムで背の高かったフレバスを思い起こせ

火の説教5:T.S.エリオット「荒地」

| コメント(0)
T.S.エリオットの詩「荒地」から「火の説教」5(壺齋散人訳)

  川がオイルとタールの
  汗をかく
  艀は潮に乗って
  ただよう
  赤い帆を
  いっぱいに広げて
  はためきながら 川下に向かう
  艀は漂う 丸太を
  洗いながら
  グリニッジのほうへと下っていく
  アイル・オヴ・ドッグスを通り過ぎて 
     ウェアララ レイア
     ワララ レアララ

火の説教4:T.S.エリオット「荒地」

| コメント(0)
T.S.エリオットの詩「荒地」から、「火の説教」4(壺齋散人訳)

  「音楽が水の流れに乗って俺の傍らを過ぎていく」
  ストランド通りを進み クィーン・ヴィクトリア通りを行くと
  そこはシティだ そこで俺は時折
  ロアー・テムズ通りのパブの傍らに立って
  マンドリンの楽しげな調べを聞いたり
  食器の音や人間のしゃべる声を聞くのだが
  それは猟師たちがたむろするパブの中から聞えて来るんだ
  またそこではマグナス・マーター寺院の壁の
  白や金色のイオニア風の柱が得も言われぬ荘厳さに輝いているんだ

火の説教3:T.S.エリオット「荒地」

| コメント(0)
T.S.エリオットの詩「荒地」から「火の説教」3(壺齋散人訳)

  すみれ色の時刻 
  目と背中がデスクから起き上がり
  人間という発動機が客待ちのタクシーのような音を立てる
  わしティレシアスは 目が見えぬのじゃが
  しわだらけの女の乳房をつけたおとこおんなで
  すみれ色の時刻には
  海からあがってくる船乗りたちや
  ティータイムに帰宅するタイピストが見えるのじゃ
  その女は朝食の後始末をし ストーブに火を入れ
  缶詰の中身を出してテーブルに広げる
  窓の外には半がわきの下着が危うそうにかかっていて
  太陽の残り陽に照らされている
  ベッド兼用の長椅子の上に積み重なっているのは
  ストッキングやスリッパやキャミソールやコルセット
  わしティレシアスは しわくちゃのおっぱいをしておるが
  この女を見ると その後の展開がわかるんじゃ
  わしも こいつを訪ねてくる男を待っておったんじゃ
  そいつは ニキビ面の若いヤツじゃが
  小さな不動産屋に勤めておって
  下層階級の生まれじゃが 不敵な面がまえで
  自信たっぷりな様子は
  ブラッドフォードの金持ちの頭に乗っかったシルクハットのようじゃ
  良い頃合だとそいつは思ったんじゃろう
  食事はすんだし 女は退屈そうだし
  そこで女といちゃつきにかかると
  乗り気でもないが いやでもなさそう
  顔を赤らめながら 両手を伸ばすと
  女は何の反応もみせない
  別に反応して貰わなくたっていいし
  無視されたって構わないのじゃ
  (わしティレシアスにはわかってたんじゃ
  この長椅子で行われるすべてのことが
  テーベの城壁のもとに坐し
  身分卑しき死者たちの間を歩いたわしじゃ)
  男は最後にキザなキスをくれると
  暗い階段を手探りで降りて行った

  女は振り返って鏡の中をちょっとのぞく
  恋人がいなくなったことなどもう忘れておる
  女の脳みそなどほんの少しのことしか覚えてられないのじゃ
  "ああやっと終わったわ 終わってうれしいわ"
  かわいい女というもんは 遊び終わったあとでは
  部屋の中を一人で歩き回るもんじゃ
  この女も手でスムーズに髪をもみしだきながら
  蓄音機にレコードをかけるってわけじゃ

火の説教2:T.S.エリオット「荒地」

| コメント(0)
T.S.エリオットの詩「荒地」から「火の説教」2:壺齋散人訳

  一匹の鼠が草むらのなかをはいずった
  ぬるぬるした腹を土手にこすりながら
  俺はといえば どろんとした運河で釣りをしてた
  冬の夕方に ガスタンクの後ろで
  遭難した兄王のことや
  その前に死んだ父王のことを思いだしながら
  低湿地には裸の死体が白くなって転がり
  低くて乾いた天井裏では 毎年のように
  骨が鼠に蹴られてカタカタと鳴る
  背後で時たま聞こえてくるのは
  角笛の音や 警笛の音
  つられてスウィーニーがポーター夫人を訪ねにいくのは春のことさ
  ポーター夫人の頭上では月が輝き
  夫人の娘の頭上まで照らしていた
  二人はソーダ水で足を洗う
  ソシテ丸天井ノ聖堂デ歌ウ少年タチノ声

  トウィット トウィット トウィット
  ジャグ ジャグ ジャグ ジャグ ジャグ
  こんなにひどくせかされて
  テーレウー

  非現実の都市
  茶色いスモッグが垂れ込める冬の昼下がり
  スミルナの商人たるユーゲニデス氏が
  無精ひげを生やし ポケットには乾ブドウをいっぱい詰め込んで
  「ロンドン渡し運賃保険料込み一括払い手形」を持っていたが
  そいつが下卑たフランス語で誘ってきた
  キャノンストリート・ホテルで昼飯を食って
  その後週末にはメトロポールへ行きましょうや、と

火の説教1:T.S.エリオット「荒地」

| コメント(0)
T.S.エリオットの詩「荒地」から「火の説教」1(壺齋散人訳)

  川辺のテントはこわれ 最後の葉っぱの切れ端が
  からみあいながら ぬかるんだ土手に沈んでいった
  風が音もなく茶色い地面を吹き渡り ニンフたちもいなくなった
  いとしいテムズよ 静かに流れよ 俺が歌い終わるまでは
  川面には空き瓶も サンドイッチの包み紙も
  絹のハンカチも 段ボールも たばこの吸い殻も浮かんではいない
  夏の世を忍ばせるものはなにひとつ ニンフたちもいなくなった
  ニンフの友達 市のお偉方のドラ息子たちも
  挨拶もせず いなくなってしまった
  レマン湖の水辺で 俺は座って泣いていたっけ
  いとしいテムズよ 静かに流れよ 俺が歌い終わるまでは
  いとしいテムズよ 静かに流れよ そんなにうるさくは歌わないから
  だが背後の方で 冷たい風にまじって
  骨のこすれる音が聞こえ 張り裂けた口から忍び笑いが漏れてきた

チェス遊び3:T.S.エリオット「荒地」

| コメント(0)
T.S.エリオットの詩「荒地」から「チェス遊び」3(壺齋散人訳)

  リルの亭主が除隊になったとき
  わたし彼女にいってやったのよ 率直に
  急いでください もう時間です
  アルバートが帰ってくるんだから ちゃんとしなさいよ
  あの人知りたがるわよ 自分のやった金であなたが
  ちゃんと入歯を入れたかどうかって だってあの人言ってたでしょ
  リル その歯を全部抜いて 総入歯にしろよって
  たしかにいってたわ もうそんな顔見たくないって
  わたしだって見たくないわ アルバートの身になってみなさい
  四年間も兵隊暮らしで いい思いをしたいはずよ
  もしあなたがさせてあげないなら 他の人にとられるわよ
  へえ そうなのと彼女はいった そんなものよと私は答えた
  どんな女か見てみたいと彼女は言って 私の顔をまっすぐに見つめた
  急いでください もう時間です
  いやならそのままでもいいよ とわたしは言ってやった
  そうしたら他の人が彼の面倒を見るようになるわよ
  アルバートに捨てられても それはわたしのせいじゃないわよ
  そんなに老けた顔じゃ仕方がないじゃないの
  (彼女はまだ31なのに)
  どうしようもないわと彼女は言った 浮かぬ顔つきで
  堕ろそうとして飲んだ薬のせいよ
  (彼女はもう五人も子供を産んでいて 六人目を生むのはこたえた)
  薬剤師は大丈夫だと言ったけれど おかげでこんなになっちゃった
  あんたは馬鹿よ と私は言ってやった
  アルバートがあんたとしたがるのは当たり前じゃないの
  結婚したら子供が生まれるのは当たり前よ
  急いでください もう時間です
  そこで アルバートが帰ってきた時 あの夫婦はホットギャモンを食べた
  わたしにも熱い奴を食べに来いよと誘ってくれた
  急いでください もう時間です
  急いでください もう時間です
  お休みビル お休みルー お休みメイ お休み
  さあ さあ お休み お休み
  お休みみなさん みなさんお休みなさい お休みなさい お休みなさい

チェス遊び2:T.S.エリオット「荒地」

| コメント(0)
T.S.エリオットの詩「荒地」から「チェス遊び」2(壺齋散人訳)

  "今夜は気が滅入るの とても だから一緒にいて
  話しかけてよ なぜ話さないの? 話してよ
  何を考えてるの?なんなのよ? なによ?
  あなたの考えてることなんてわからないわ 考えてるなんて"

  俺たちはけもの道にいるんだと思う
  死者たちが骨を失ったところだ

チェス遊び1:T.S.エリオット「荒地」

| コメント(0)
T.S.エリオットの詩「荒地」から「チェス遊び」1(壺齋散人訳)

  彼女の座っている椅子は 磨きあげられた玉座のように
  大理石の台座の上で輝いている その台座の上には鏡もあって
  その鏡を支える柱にはブドウの模様が施されて
  その陰からこちらを伺っている黄金のキューピッドが見えた
  (もうひとりのキューピッドは羽根で両目を隠していた)
  その鏡に映った七本枝の燭台の炎が
  テーブルの光を反射して二重に照り返ると
  彼女の宝石の輝きもその光と交わろうとして
  サテンのケースからどっとあふれ出てきた
  象牙や色ガラスの小瓶は栓が抜かれ
  その中には彼女が使う奇妙な合成香料が潜んでいた
  練り油やら粉末やら液体の香料が さまざまな匂いで
  感覚を乱し 惑わし 溺れさせる
  そして窓から吹き込む新鮮な空気に煽られて
  その匂いは蝋燭の炎を太らせながら立ち上り
  煙を天井に吹き付けるや
  天井の模様はゆらめき動いて
  銅でできた海草の模様が緑やオレンジ色に燃えあがる
  その模様は色つき石に縁どられ
  その悲しい色合いの中でイルカが泳いでいる
  古風な暖炉の上の方には
  窓越しに見える森の景色のように
  フィロメラ姫がナイチンゲールに変身した絵が架っていた
  姫は野蛮な王によって荒々しく凌辱されながら
  犯しがたい声を砂漠に響かせたのであった
  そう 彼女は叫び それに続いて世界も叫んだ
  "ジャグ ジャグ"と 汚い耳に向けて
  また壁には古びた切株の絵も架っていて
  物語を語っていた その人物たちは
  目を見開き 身を乗りだし 沈黙で部屋を満たした
  階段に足音が響いた
  暖炉の光を浴びながら 梳られた彼女の髪が
  炎のように広がったかと思うと
  熱せられて言葉となり 野蛮な沈黙へと沈んでいった

死者の埋葬4:T.S.エリオット「荒地」

| コメント(0)
T.S.エリオットの詩「荒地」から「死者の埋葬」4(壺齋散人訳)

  非現実の都市
  冬の明け方の茶色い霧の中を
  群衆がロンドンブリッジに溢れた
  こんなにも沢山の人たちが死神に取りつかれたなんて知らなかった
  短いとぎれとぎれのため息を吐きながら
  どの人もうつむき加減に歩いている
  勾配を上りキングウィリアム通りを下り
  聖ウルノス教会の所に来ると
  沈んだ音が丁度9時の時報を告げ終わったところだった
  そこで顔見知りの男を見つけて声をかけた 「ステットソン!
  君とはミライの海戦で一緒だったね
  去年花壇に植えたあの死体はどうしたかね
  芽を出したかね? 今年は咲くかな?
  それとも苗床が急な霜でやられちまったかい?
  あの犬は近寄せちゃいかん あれは人間の友だからな
  前足の爪で苗を掘り返してしまうよ!
  君 偽善ノ読者ヨ 私ニヨク似タ人ヨ 我ガ兄弟ヨ!」

死者の埋葬3:T.S.エリオット「荒地」

| コメント(0)
T.S.エリオットの詩「荒地」から「死者の埋葬」3(壺齋散人訳)

  千里眼で有名なマダム・ソソストリスは
  悪い風邪をひいていたが
  ヨーロッパ一賢い女として知られている
  一揃いのカードを持ち出すと
  これがあなたのカードよ 溺死したフェニキアの船乗りなの
  (ほら この真珠は彼の目玉だったのよ!)
  これはベラドンナ 洞窟の淑女
  いろんなことに関わりがあるの
  これは三叉の竿を持つ男 これは車輪
  そしてこれは片目の商人
  この何も書いてないカードは商人が背中に背負うのだけれど
  私は見てはいけないことになってる
  首吊り男が見えないのは 水死の恐れがあるということ
  沢山の人たちが輪になって歩いている
  ありがとう もしエキトーン夫人にお会いしたら
  天球図はこちらで持参しますと伝えて頂戴
  近頃は油断なりませんものね

死者の埋葬2:T.S.エリオット「荒地」

| コメント(0)
T.S.エリオットの詩「荒地」から「死者の埋葬」2(壺齋散人訳)

  このからみつく根っこはなんだ
  この砂利交じりのごみからどんな枝が生えるというんだ?
  人間の息子よ お前には言えない 見当もつかない
  お前が知っているのは壊れたイメージの山だけだ
  太陽が照りつけ 枯れ木には影もなく コオロギの声も聞こえない
  石はかわき 水の音さえしない
  この赤い岩がわずかな日陰を作っているだけだ
  (この赤い岩の日陰に入ってこいよ)
  そうすれば ちょっと変わったものを見せてやるよ
  朝日を浴びて後ろにひきずった影でもなく
  夕日と出会った影でもないもの
  一握りの灰を見せてやるよ
    サワヤカニ 風ハ吹ク
    故郷ノ方ヘト
    我ガアイルランドノ子ヨ
    ドコヲオ前ハサマヨッテイルノカ?
  「あなたが初めてヒアシンスをくれたのは一年前
  それからみんなにヒアシンス娘って呼ばれたわ」
  ―でも そのヒアシンス畑から戻ってきた時
  君が髪を濡らしながら 両手いっぱいにヒアシンスを抱えていたので 
  僕は口もきけず 目も見えず
  生きているのか 死んでいるのか わからないままに
  光の中心を 沈黙を 覗き込んだ 
  海は荒涼として空虚だった

死者の埋葬1:エリオット「荒地」

| コメント(0)
T.S.エリオットの詩「荒地」から、「死者の埋葬」1。(壺齋散人訳)

  四月は一番残酷な月だ
  不毛の土地からリラが芽生え
  記憶が欲望とごっちゃになり
  根っこが春雨を吸ってモゾモゾする
  冬はあたたかく包んでくれた
  気ままな雪が大地を覆い
  球根には小さな命がやどっていた
  夏にはみんなびっくりした
  シュタルンベルガー湖の向うから雨と一緒にやってきたので
  我々は柱廊で雨宿りし 日が出てからホーフガルテンに入り
  コーヒーを飲んで一時間ばかり話した
  ワタシハロシア人ナンカジャアリマセン 
  リトアニア生マレノレッキトシタドイツ人デス
  まだ子供だったころ 従兄の大公の邸で過ごしたわ
  あの人 橇に乗せてくれたけど
  わたしは怖かったの するとあの人は
  マリア マリア マリア しっかりつかまってて
  そういいながら 下っていったっけ
  山の中では 気持ちがいいものよ
  わたしは夜通し本を読み 冬には南の方に行くの

T.S.エリオット「荒地」を読む

| コメント(0)
T.S.エリオットの「荒地」は現代詩の幕開けを飾る記念碑的な作品だということになっているが、決して読みやすくはない。というより(特に我々非ヨーロッパ人にとっては)難解である。エリオット自身が原注の中で、この詩はアーサー王物語と聖杯伝説とのかかわりについてのウェストン女史の研究「祭祀からロマンスへ」に触発されたと書いているので、その方面の物語を連想させるのかと思えば、そう単純なことではない。確かに、詩の舞台はロンドンに始まり、テムズ川から地中海へ、そして東ヨーロッパからインドを経由して再びロンドンに戻って来るといった具合に壮大な旅を連想させないことはないが、旅がこの詩のテーマだとはとうていいえない。したがってこれは、聖杯伝説の物語のような、旅がテーマの叙事詩とはいえないし、他のどんなジャンルの詩とも似ていない。

1  2  3



最近のコメント

アーカイブ