世界情勢を読む

イスラエルの首相ネタニヤフが米議会の幹部に招待され、上下両院の合同会議で演説した。民主党の議員のほぼ半数と共和党の議員一人は欠席したが、ほぼ400人(535人中)の議員を前にネタニヤフは米国とイスラエルの同盟について語った。そのネタニヤフを、出席議員はスタンディング・オベーションで迎えた。それを見たものは、人間的な良心を持っていれば、いかがわしい眺めだと思わざるを得ないだろう。

「法を平等に適用しなければ、種としての人類が崩壊する」。これはカリム・カーンICC主席検察官がCNNのインタビューに答えて言ったことばだ。このインタビューの概要を、雑誌「世界」の最新号(2024年8月号)が掲載している。それについて、戦後責任論争で知られる高橋哲哉が解説を加えている。これらを読むと、人類社会もまだ捨てたものではないとの気にさせられる。なにしろ、プーチンについては、その蛮行を口を極めて罵っている「西側」が、イスラエルによるガザの大虐殺には目をつぶっている。そんなしらけた世相の中で、プーチンにしろネタニヤフにしろ、法の前では平等だ、犯した罪については、平等に裁かれなばならない、という当たり前のことを、カリム・カーンの言葉は、あらためて認識させてくれる。

カリム・カーンの応答には、悲壮さが感じられる。それは、アメリカやイスラエルの圧力があるからだろう。アメリカの議会は、カーンを直接名指しして非難し、彼自身ばかりかかれの家族にも制裁を課すと言っている。そうした圧力に屈するわけにはいかない。もし屈すれば、つまり、「私たちが不都合な真実をエアブラシで消すようなことをすれば、ガス室の犠牲者の名誉を傷つけることになります」とカーンはインタビューの最後で強調する。その言葉は、ICCがニュルンベルク裁判の結果を踏まえて生まれたという歴史的な事実を踏まえている。米英には「この裁判所はアフリカや、プーチンのような暴漢のために作られたものだ」と露骨に言うものもいるが、そうではなく、人類社会に正義を実現するためにある、ということをカーンは力強く言っているのだ。

高橋の解説は、ヨルダン川西岸において、イスラエル「国家と公的機関自体が違法行為を実行」してきたことに言及する一方、イスラエル政府のICCへの敵対行為についてスクープしたイギリスの新聞 The Guardianの記事を紹介している。そこで「ICCに対するイスラエルの九年間戦争(Spying, hacking and intimidation: Israel's nine-year 'war' on the ICC exposed)」と題するその記事を、ネット上に探し出して読んでみた次第だ。

イスラエルがICCへの敵対行為を始めたのは2015年のことだ。その年に、パレスチナが国連総会で国家として認められたことを踏まえてICCの構成国に加えられた。そのことは、イスラエルによる反人道的な行為をICCが取り上げる可能性を示唆した。じっさいICCは、ファトゥ・ベンスーダの指導のもとで、イスラエルの人道犯罪を調査し始めた。危機を覚えたイスラエル政府は、ありとあらゆる手段を使ってICCへの捜査妨害に乗り出した。それはきわめておぞましいもので、ベンスーダ個人とその家族の安全を脅かすものであった。だが、ベンスーダは屈しなかった。彼女の在任中にイスラエルの責任を問う具体的な動きには至らなかったが、彼女の業績があったおかげで、それを引き継いだカーンが今回の勇敢な行動に踏み切ることができた。

この記事を読むと、ネタニヤフらイスラエルの指導者らが、ICCに訴追されることを異常に恐れていたことが伝わってくる。それは、彼ら自身、国際法違反をしていると認識していたからだろう。ネタニヤフらは、イスラエルの諜報資源を総動員してICCの捜査を妨害し、また、アメリカにトラプ政権が登場してからは、アメリカ政府を巻き込んでICC非難を続けた。かれらは自分らの脅迫行為がかなり功を奏していると思っていたフシがある。だが、今回のカーンによる逮捕状の請求という行動を止めることができなかった。そうした経緯が、ガーディアン紙のこの記事には非常にわかりやすく書かれている。


岩波の読書誌「図書」の最新号(2024年7月号)に、西谷修の「ショック・ドクトリンとアメリカ例外主義」と題する小文が掲載されている。これは、ナオミ・クラインの著書「ショック・ドクトリン」の意義を論じたもので、ショック・ドクトリンとアメリカ例外主義との親縁性を指摘したものだ。ショック・ドクトリンは、惨事便乗型ビジネスとか災厄資本主義と呼ばれるような、資本主義の犯罪的な側面について説明する概念ということらしい。また、アメリカ例外主義は、アメリカは他国と同等なのではなく、古い秩序を超えた新世界だという主張らしい。そう指摘したうえで、この小文は、ショック・ドクトリンとはアメリカという新世界創設の原理だという。

11月のアメリカ大統領戦に向けて、バイデン大統領とトランプ前大統領のテレビ討論が、CNNの主催で催された。このイベントの意義についてはいろいろなコメントがなされているが、いまはそれを一切省き、この討論そのものの内容と、その政治的な意味合いについて考えてみたい。

国際刑事裁判所(ICC)が、イスラエルの首相ネタニヤフを戦争犯罪容疑で逮捕状請求した。南アフリカから提起されていた、ガザにおけるジェノサイドについての捜査要求にこたえたものだ。ネタニヤフのほか国防相のガラント、およびハマスの指導者3名にも逮捕状が請求された。これに対してネタニヤフ本人が激しく拒絶しているのはともかく、米大統領バイデンも反発している。例によって、イスラエルには自衛権があるという理屈からだ。バイデンが言うイスラエルの自衛権とは、イスラエル国家による無制限のパレスチナ人殺しの権利ということらしい。

イスラエルによるガザのジェノサイドに関連して、ニクァラガがドイツをICCに提訴した。提訴理由は、ドイツ政府がジェノサイド条約に基づくジェノサイド防止義務を怠っているというものである、なぜニクァラガが、イスラエルの最大の支援国であるアメリカではなく、ドイツを提訴したのか。わかりにくい部分があるが、ドイツもアメリカにおとらずイスラエルを支持しており、また、現在でも多額の軍事援助を続けているから、ドイツの責任を問うということについては、一定の理解はできる。なにしろドイツは、いっさいイスラエルを批判しないし、というか批判ができないでいる。それはなぜなのか、その謎に迫った小論が雑誌「世界」の最新号(2024年6月号)に掲載されている。橋本伸也著「歴史家論争2.0とドイツの転落」と題した文章である。

岩波の雑誌「世界」の最新号(2024年5月号)が、「ガザ攻撃はシオニズムに一貫した民族浄化政策である」と題する小論(早尾貴紀著)を掲載している。この攻撃を西側諸国の主要な論調は、ハマスのテロへの反撃であり、イスラエル国家の自衛権の発動だとしながら、ちょっとやりすぎかもしれない、というふうに論じている。それに対してこの小論は、イスラエル国家によるパレスチナへの暴力支配の歴史に言及し、ハマスの攻撃はテロなどではなく、イスラエル国家の暴力支配に対する抵抗だと位置づける。そのうえで、イスラエルによるパレスチナ人への大量虐殺すなわちジェノサイドを強く批判する。

ハーバード大学の学長辞任騒動について、これは米国内での親イスラエル勢力の圧力によるものと、小生などは思っていたが、実はもっと複雑な事情があるらしい。その事情の一端を、雑誌「世界」の最新号(2024年4月号)に寄せられた一文が解き明かしている。「大学不信と多様性へのバックラッシュ」と題されたこの小文(林香里)は、米国内における保守派による大学の多様性へのバックラッシュがこの事件の真の要因であり、反ユダヤ主義云々という保守派の主張は、多様性への敵対を糊塗する言い訳のようなものだというのである。

雑誌「世界」の最新号(2014年3月号)に、今進行中のパレスチナ問題についての二つの投稿がある。一つは「パレスチナ・西岸に生きるということ~あるいは次の瞬間死ぬということ」と題する安田菜津子のルポルタージュ記事、もう一つは「ショアーからナクバへ、世界の責任」と題する高橋哲哉の講演記録で、こちらはイスラエルによるパレスチナ人迫害について原理的な考察を行っている。

岩波の雑誌「世界」の最新号(2024年2月号)が「リベラルに希望はあるか」という特集をしている。いまどき何故リベラルを、しかもその希望を問題にするのか、それ自体が問題であるが、それはさておいて、この特集には、いわゆるリベラルは必ずしも人間にとっての希望と結びついていないのではないかという懸念が指摘できるようだ。

イスラエルのガザにおける虐殺を、南アフリカ政府がジェノサイドだと批判し、国際司法裁判所に提訴したことを受けて、ネタニヤフが奇妙な反論をしている。我々の行為は国際法にしたがったもので、かつ道徳的だというのだ。どうもネタニヤフにとっては、イスラエルのユダヤ人が行うことは、どんなことでも合法的であり、かつ道徳的な行為だということのようだ。

NHKは優れた教育映画作品を対象に日本賞を授与しているそうで、今年は50回目を迎えるという。そこでグランプリに輝いた作品をEテレで放映した。「トゥー・キッズ・ア・デイ」というタイトルだ。イスラエルにおいて、日常的に行われているパレスチナ人の逮捕監禁をテーマにしたもので、なかでも14歳未満の子どもを対象とした逮捕監禁をこの映画は取り上げてる。それを見ると、ヨルダン川西岸で暮らすパレスチナ人の厳しい境遇と、かれらを日常的に迫害しているユダヤ人の残酷さが伝わってくる。

雑誌「世界」の最新号(2024年1月号)に、「国家が国籍を奪う 英国の経験」と題する小論(柄谷利恵子著)が掲載されている。近年のイギリスにおける国籍剥奪及び非正規に入国したものの第三国への移送問題などを論じたものだ。これを読むと、スーナク首相が進めている第三国(具体的にはルワンダ)への移送問題の本質が見えてくる。

ガザでジェノサイドの虐殺行為を続けるイスラエル軍が、ハマスによって人質に取られた自国民を殺害した。これについてイスラエル政府は哀悼の意を表するといっているが、いかにもしらじらしく聞こえる。ネタニヤフは先日自国民人質について、全員の命は保証できないという旨の発言をして、家族の怒りを買ったということだが、それがネタニヤフの本音なのだろう。

岩波の雑誌「世界」の最新号(2024年1月号)が「ふたつの戦争、ひとつの世界」と題する特集を組んでいる。二つの戦争とは、ロシアとウクライナの戦争及びイスラエルとハマスの戦争のことだ。このふたつのうち後者の方に力点が置かれている。五つの記事のうち四つが後者をテーマとしている。

イスラエルを熱心に支持しているバイデン政権が、ネタニヤフ政権に戦車などの兵器を提供する決定をしたそうだ。総額で1億650万ドル=日本円でおよそ154億円相当だそうだ。この規模の外国への武器提供には、本来議会の承認が必要だが、バイデンはその手続きを踏まずに実行するという。

来年の米大統領選挙の勝利を目指しているバイデンに黄信号がともったと噂されている。アメリカのイスラム社会が、今般のイスラエルとハマスの戦いに関するバイデンの対応ぶりに大いに不満を抱き、来年の選挙ではバイデンに投票しないキャンペーンを始めたからだ。イスラムの人口は、そんなに多くはない。全米で350万程度だ。だが、大統領選挙の行方を左右する、いわゆるスウィング・ステートでは、選挙の結果を左右する力をもっている。それらの州で、イスラム系がかりに棄権すれば、バイデンはかなりな確率で敗北するだろうと予想されている。

ハマスに人質になっている者の一部が、イスラエルが拘束しているパレスチナ人と交換で釈放された。この交換は、ハマスが釈放する人質1人に対して、イスラエル側が3人の割合で釈放するという取り決めになっているようで、初回はハマスが釈放するイスラエルの人質13人に対して、イスラエル側は39人を釈放した。ところが、ハマスはそれに加え、10人のタイ人(他にフィリピン人1)を釈放した。これは、交換の枠組とは別途、ハマス側の一方的な措置である。ということは、タイ人の人質は、交換の枠組にそもそも入れられていないということだろう。タイ人をイスラエルが交換の枠組に含めないということは、タイ人を人間として見做していないということを物語っているのではないか。

スウェーデンのクリステション首相の発言が波紋を呼んでいる。国内の集会で、イスラエルとハマスの対立に触れたさい、イスラエルの攻撃に関して、イスラエルにはジェノサイドの権利があるというふうに受け取られたためである。スウェーデン政府はこれを誤認だとして火消しにやっきになっているようだが、どうもそう単純なことではないらしい。クリステション首相の発言は、イスラエルには Volkmord (ジェノサイド)の権利があるというものだったらしいが、これは言い間違いで、首相はイスラエルには自衛権があると言いたかったのだとスウェーデン政府は言いたいらしい.。だが、かりにその通りだとしても、クリステション首相の発言には問題があるといわねばならない。

ドイツ政府の内務大臣が、国内のイスラム教徒に対して、ハマスの越境攻撃を明確に非難し、イスラエルへの連帯を表明するよう求めたそうだ。これは事実上強制的なものといえるようだ。なにしろドイツ政府が名指しで求めていることだ。それに応えないとどんなことになるか。ドイツ国内のイスラム教徒は不安におびえていることだろう。

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