今回のG7は日本の岸田首相が議長を務めたということもあって、岸田首相の人格を感じさせるものとなったのではないか。岸田首相には、核なき世界と言いながら、実際には核抑止を信じているというような、分裂した言動が指摘されるのであるが、今回はそうした岸田首相に呼応するかのように、支離滅裂な会議になったというのが小生の受けた印象である。
世界情勢を読む
藤原帰一は国際政治学の視点から、現代社会について考察し、様々な媒体を通じて意見を発信しているようだ。岩波の雑誌「世界」に連載している「壊れる世界」もそうした発信の一つであり、小生は毎号読んでいる。最新号(2023年6月号)では、「戦争とナショナリズム」と題して、21世紀になって大規模戦争の可能性が無視できなくなり、それをナショナリズムが支えているという分析をしているのだが、その中で一つ、ウクライナ戦争の終わらせ方をめぐって藤原の提示するオプションにたいへん興味を覚えた。
先日ドイツ政府の高官がロシアをナチ呼ばわりするということがあった。西側の全面的なロシア憎悪に悪乗りしたのだと思うが、こういう言説をきかされると、語るに落ちた妄言と感じざるをえない。かつてかれらの祖先がソ連に戦争を仕掛け、2600万にのぼるロシア人を殺したのは厳然とした歴史的事実だ。そのナチスドイツの子孫が、自分たちの祖先が殺しつくしたロシア人を相手に、ナチ呼ばわりするというのは、ブラックジョークにもなるまい。だが、一日本人として、そうとばかりも言っていられない。今の日本人も同じようなことをしているからだ。今の日本人は、かつて自分たちの祖先が侵略した中国を、全体主義国家だとかなんとか理屈をつけて、公然と敵視し、あわよくば新たな戦争を仕掛けかねない勢いである。
前米大統領ドナルド・トランプがニューヨーク検察によって起訴された。容疑はとりあえず、元ポルノ女優ストーミー・ダニエルスとのセックス・スキャンダルにからむものだが、トランプにはそのほか重大な犯罪容疑がいつくか取り沙汰されており、今後の展開によっては複数の容疑で訴追される可能性が高い。

先日元米国大統領ドナルド・トランプが、3月22日にニューヨークの検察官に逮捕されるといって、支持者に反撃するようにと、自分の運営するソーシャルネットワーキングサービス「トルース・ソーシャル」に投稿したことで、ストーミー・ダニエルスとの間におこっていた数年来のスキャンダルに、あらためて脚光があたった。これは周知のことなので、ここでは詳しく触れないが、何といっても、一介のポルノ女優だった女性が、米国の大統領を苦境に追い込んだというので、彼女の勇気をたたえる言説があちこちに出始めている。これまで彼女は、罵倒されることはあっても、褒められることはなかった。それは、アメリカの男性優位の価値観を、彼女が覆しつつあるという画期的な事態の重みを、さすがに頑迷なアメリカのジャーナリズムも無視できなくなったということだろう。
国際刑事裁判所なるものが、ロシアの大統領プーチンを、戦争犯罪容疑で国際指名手配したそうだ。小生も、プーチンは裁かれるに値することをやっていると考えるので、かれを訴追する動きに異議はない。だが、いまの国際情勢を踏まえれば、この訴追には象徴的な意味しかなく、プーチンが現実に裁かれる可能性はほとんどないと言われている。それでもプーチンを裁こうとするのは、世界の指導者に対する警告の意味合いがあるからだという。プーチンと同じようなことをすれば、誰でも、たとえアメリカ合衆国の大統領であっても、訴追される危険があることを知らしめることで、抑制的な効果を期待するというのである。
中国がウクライナ戦争について、ロシアとウクライナの仲介役を買って出、停戦案を提示したところ、NATOは消極的な反応を見せている。中国は事実上ロシアの同盟国で、中立的な立場ではないから、信用できないというのが表向きの理由だが、それとは別に、もっと深い事情があるようだ、その事情を理解するためのとっかかりを、ある文章が提供してくれる。ネット・オピニオン誌POLITICOに掲載された "Here's How Ukraine Could Retake Crimea By Cacey Michel" という文章である。
国連安保理が、イスラエルによるパレスチナ占領地への入植拡大を批判する決議をした。イスラエルはこれに異議を唱え、アメリカがそれに同調したことを非難したと伝えられる。だが実際には、そんなに単純なものではないようだ。これについては、イスラエルも一定の理解を示し、それをアメリカが確認したので、安心して同調したということらしい。アメリカとしては、イスラエルとの緊密な関係を踏まえ、イスラエルが強く反発する決議案には今まで拒否権を行使してきており、今回も、もしイスラエルが強く反発するなら、拒否権を行使するはずだった。それが、しなかったのは、国際的な背景が働いているためだ。
先日、雑誌「世界」最新号(2013年3月号)のウクライナ戦争特集を批評した中で、岡真理の「人権の彼岸から世界を見る」についても触れておいたが、この小論はなかなか考えさせるものがあるので、別途取り上げて論評してみる気になった。
雑誌「世界」の最新号(2023年3月号)が、「世界史の試練ウクライナ戦争」と銘打って、ウクライナ戦争を特集している。「世界」は過去二度ウクライナ戦争を特集した。戦争が始まった直後と、それにすぐ続く臨時増刊号(「ウクライナ侵略戦争ー世界秩序の危機」と銘うつ)だ。最初の特集では、ロシアがウクライナに侵攻したことに、一定の理解を示すような論説もあったが、臨時増刊以降は、ロシアによるウクライナ侵攻を、明確に侵略戦争と定義し、ロシアを批判する内容の記事が紙面を埋めるようになった。三回目の今回の特集では、ロシアへの批判を基本としながら、なぜロシアが戦争に訴えたか、それを考えさせる記事も含まれている。
ウクライナ戦争がきっかけとなって、地球社会は軍拡競争時代に入った。各国とも防衛予算を倍増させているし、ポーランドなど四倍増させた国もある。日本でさえ、岸田政権が、財源の見通しもつけないまま、防衛費倍増の政策に舵を切った。こうした動きによって最も恩恵を受けているのが、欧米の軍需産業だ。アメリカやイギリスの軍需企業は空前の利益を上げている。そのほかにも、戦争の副作用としてエネルギー危機がおこり、そのことで米英の石油メジャーがぼろもうけしている。また、石炭企業も復活を果たしており、脱酸素の動きなどどこ吹く風の扱いだ。
中国の風船がアメリカ上空に飛来し、それをバイデン政権が破壊したことが、大騒ぎになっている。アメリカはこれを、中国がアメリカの機密情報を収集するために飛ばした偵察気球だと非難し、それを破壊することは、アメリカの安全保障上当然のことだと言うのに対して、中国側は、これは民間の気象調査用の風船であり、それが思いがけず、アメリアの上空に迷い込んだだけのことであり、それを一方的に破壊する行為は過剰反応だといって避難し、報復措置を匂わせている。だが、そんな脅しに対して、議会も超党派で対中対決姿勢を強めている。それに乗っかる形でバイデンも、「おれが率先して中国風船をつぶした」といって、自分の手柄を強調し、大よろこびする始末である。
ゼレンスキーが政府高官などの汚職摘発に乗りだしたことが話題となっている。摘発された高官のなかには、国防省の幹部も含まれているというからかなり深刻だ。ゼレンスキーがいま汚職の摘発に腰を上げたことには、いくつかの理由があると憶測されている。一つは、かねてからの公約を実施したということ。ウクライナは、ロシア同様汚職が蔓延する腐敗国家というイメージがあった。そのイメージを振り払わないと、悲願のEU加盟が達成できないということがあるのと、また、西側からの援助にさしさわりがあると認識したこともあるだろう。
ドイツを先頭にしてNATOに結集する西側諸国が揃ってウクライナに重戦車を供給することとなった。その数300台にのぼるという。全部揃うまでには時間がかかるようだが、それによってウクライナの対ロ反撃能力は飛躍的に強まるだろう。戦車同士まともに戦ったらかなわないとロシアは認識しているようで、さっそく防御態勢の構築にとりかかっている。東ウクライナの前線沿いに長大な防御陣地(土塁や塹壕など)を築き、西側の戦車の進軍を阻むとともに、反撃の態勢を準備しているようだ。
1月27日はアウシュヴィッツの78年目の記念日だというので、現地では記念集会が開かれたそうだ。前年までは、アウシュヴィッツをナチスから解放したソ連の後継者ロシアが毎年招待されていたが、今年はされなかった。ロシアのウクライナへの侵略に抗議する意思を示したということらしい。一方、アウシュヴィッツの解放とは直接関係のないアメリカの代表が招待された。招待されたのはハリス副大統領の夫ということだ、無論アメリカを代表するかたちで招待されたのであろう。
対中人種戦争を仕掛けたバイデンだが、目下ウクライナを舞台にした対ロ代理戦争に手がいっぱいなようで、対中関係はいまのところエスカレートまではいたっていない。だが全く静観しているわけでもなく、半導体をめぐる対中攻撃にとりかかった。中国の半導体産業を弱体化させるために、半導体の生産に必要な製品を輸出禁止しようというもので、それに日本とオランダがまきこまれた。バイデンは、世界の半導体製造装置の大半を生産しているアメリカ・オランダ・日本の企業に対して、中国への製品輸出をやめるよう求めたのだ。オランダの企業ASMLは、そんなことをしても無駄だといって抵抗するそぶりを見せたが、オランダ政府の圧力で受け入れざるを得なかったようだ。日本の企業東京エレクトロンは、日本政府の言いなりになるようである。
今般のウクライナ戦争をめぐって、ドイツは攻撃能力の高い戦車レオパルト2をウクライナに供与することを決定した。あわせて、他国が保有するレオパルト2をウクライナに供与することを認めることとした。これは、西側による対ロ代理戦争の一層の深まりを意味するだけではなく、ドイツが軍事大国として対ロ戦争に本格的に参加することを意味する。
雑誌「世界」最新号(2023年1月号)のアメリカ特集のからみで、秋元由紀・押野素子の対談「ベストセラーが照らすアメリカ黒人の生」が掲載されていて、大変興味深く読んだ。二人とも女性のアメリカ研究者だそうで、アメリカに暮らした経験があり、アメリカにおける人種差別の根深さを肌で知っているようである。アメリカの人種差別といえば、白人による黒人の差別が基本で、それに加え、アジア人やヒスパニックが白人の差別の対象になる。白人の黒人差別は、奴隷制の歴史に根ざしたもので、そう簡単にはなくならないし、場合によっては露骨な形をとることもある。それに比べれば日本人を含めたアジア人は、黒人ほど露骨な差別はうけないが、しかし、強烈な差別意識を感じさせることはあると、二人は言う。とくに、アジア人が優秀で白人と同等の能力を発揮するような場合に、差別が表面化する。黄色いくせして、身の程をわきまえない奴だというわけである。
アメリカは信仰の自由を求めた人々が中心になって「建国」されたという事情があって、宗教が政治に大きな影響を及ぼしてきたと言われる。レーガンやトランプが大統領になったのも、保守的な宗教人口に支えられてのことだとされる。松本佐保の「熱狂する神の国アメリカ」(文春新書)を読むと、アメリカ政治史における宗教の役割がよくわかる。
ウクライナ戦争をめぐって、自由でリベラルな国家と専制的な国家の対立という図式が流布されている。欧米をはじめとしたリベラルな国家は、自由と民主主義を奉じるウクライナが、専制的な国家であるロシアに侵略されるのを見過ごすことはできない、といった理由から、欧米諸国のウクライナ戦争への介入が正当化されている。それは、今の国際社会の深刻な分断を反映しているのであろう。そういう状況をどう考えるか。雑誌「世界」の最新号(2022年12月号)が、「分断された国際秩序」と題して、ウクライナ戦争をめぐる、世界の分断について特集している。
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