風流蛙大合戦之図:河鍋暁斎の戯画

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河鍋暁斎は、若い頃から社会情勢には敏感で、世の中の動きを戯画にして笑い飛ばしていた。「風流蛙大合戦之図」と題したこの絵はその代表的なもの。元治元年(1864)に描かれたこの作品は、同年夏に勃発した第一次長州征伐の様子を描いたとされている。

これが長州征伐だとわかるのは、二手に分かれた軍勢の旗印が、右手は紀州徳川家の六葉葵紋、左手が毛利家の沢潟紋であるところから知られる。これらの紋を旗印に戦っているのは、蛙たちである。彼らは蒲の穂で作った槍を振りかざし、水鉄砲で相手の陣地を攻撃している。しかし一人ひとりの様子をよく見ると、みな真剣な表情をしているし、中には血を流して倒れているのもいる。

蛙なりに真剣勝負の戦いなのだ。戦いの当事者を現実の集団ではなく蛙の集団にしたのは、大石内蔵助を大星由良助とする類のカムフラージュだ。この時代のことであるから、一介の庶民がお上のすることを正面から批判したら、命にかかわったであろう。

カムフラージュといえば、版元の名を架空の名「スハ井」とし、作者を「狂人・狂者」としているところにもあらわれている。

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これは、右端の部分を拡大したもの。陣幕や大砲の車輪に六葉葵の紋が見える。また蛙の軍団のなかでひときわ大きく描かれているのは、各藩の大将格だと思われる。

(1864年 大判錦絵三枚組 河鍋暁斎記念美術館)






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