(ユーリエフ修道院遠望)
食後バス停にてバスを待つ。ややしてバス来る。生活路線なり。車掌にユーリエフ修道院に行きたしと告げ、まはりの乗客にもその旨を告ぐ。かれらバスがユーリエフ修道院に着くや一斉に余にその旨を告ぐ。ために間違ひなく目的地に下車することを得たり。
(ユーリエフ修道院礼拝堂)
ユーリエフ修道は原野の中にぽつ然と佇みてあり。周囲は一面の草原なり。ロシア最古の修道院にして、世界遺産にも登録されをる由なり。礼拝堂を始めいくつかの建物からなる。周囲は壁に囲まれ、北側の壁の外部には湖が横たはれるやうなり。その狭き敷地内に中国人観光客押しかけ、さながら押し合ひへしあひの状態なり。
(ユーリエフ修道院礼拝堂内部)
礼拝堂内に立ち入るに、内部はかなり荒廃してあり。またある堂内に立ち入りてイコンの展示物を見る。いづれも中世に作成せられたるものの由なり。この旅行の最大の収穫は、現場にて多くのイコンに接したることなり。
見物後町へ戻らんとして、石子のスマホアプリを活用し、ヤンジェクス・タクシーを呼ばんとす。アヴェイラブルな車両あらずと返さる。致し方なくバスに乗らんとてバス停に赴く。そこに一組のロシア人男女あり。聞くにバスは当面来ざるべしといふ。かれら自身はタクシーを呼べるといふゆえ、余らはタクシーを呼ぶことを得ず途方にくれをると訴へたるところ、余の情けなき顔に同情せるか、自らのスマホを用ひてタクシーを呼び寄せてくれたり。感謝に耐へず。ロシア人にはかかる親切な人もゐるなり。
三時頃ホテルに着く。正式にチェックインして各自部屋に通さる。昨夜からの日記を整理し、しばしベッドに横たはりて旅の疲れを癒す。
六時ごろタクシーを雇ひてレストラン・ドム・ベルガに赴く。ニコリスキー協会付近の店なり。ここにてビェフ・ストロガノフ、鯛の蒸し焼き、ボルシチなどを食ふ。ワインはグルジア産の白ワインを註文す。多少甘口の飲みやすき酒なり。
店の雰囲気なかなかよし。その由来を聞くに、もとドイツ人ベルグ氏の邸宅なりしをレストランに改造したる由。ドム・ベルガとはベルグの家を意味するなり。
食後再びタクシーをやとひてホテルに戻り、浦子の部屋に集まりて昨夜飲み残せしヲートカを飲む。このヲートカ度数四十を越ゆれど水にて割ることなし。しかれどもスムースな味はひなり。浦子大いに気に入りたりといふ。余も又気に入れり。
昨夜の夜行列車にて疲労高じ、ベッドに入るやすみやかに眠りに陥りたり。
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