
河鍋暁斎は、蛙と同じように猫もよく描いた。「猫又と狸」のなかの猫はその代表的なものだ。そちらの猫は猫又といって半分妖怪のようなものだったが、この絵の中の猫は、色気のある雌猫である。色気はあるが、ゆるんではいない。目つきはなかなか鋭い。
その雌猫が仰向けになった鯰の腹に乗っている。二匹の子猫がその鯰の髭をつかんで引っ張っているが、これは船を曳いているつもりなのだろうか。その曳かれている鯰の腹に乗っている猫は、浴衣を着て寝そべり、口には赤いラオのキセルをくわえている。浴衣の柄はあっさりとして、夏の風情を感じさせる。
夏の風情と言えば、背景になっている橋と、その手前にのぞいている柳の木も、夏の季節感を感じさせる。このことから、鯰は川に浮かんでおり、それを子猫たちが岸辺から曳いていると伝わってくる。
一筆書きのように、一気呵成に描いたのだろうと思われる。鯰や猫を目前にして描いたのではないのだろう。暁斎は動物の実像をよく記憶し、それを必要に応じて活用することが得意だった。
(明治四年ころ 紙本墨画淡彩 19.4×29.8㎝ ゴールドマン・コレクション)
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