
天狗といえば長い鼻がトレードマークだが、天狗の鼻が何故長くなったかはよくわからない。ましてその長い鼻を切られる天狗の話は聞いたことがない。そんな根拠の不確かなことを、暁斎らしいユーモアを込めて描いたのが、「天狗の鼻切り」と題するこの一枚だ。
右手で書物を抱えた天狗の長大な鼻に小天狗がまたがり、斧を振りかざして今にも切り落とそうとしている。その大天狗は左手で二匹の鼠の鼻を引っ張っている。おかげで鼠は鼻が長く伸びて、モグラのような顔つきになっている。だいたい鼠と言うものは、そんなに長い鼻を持っておらぬのだ。
大天狗の鼻の先には赤い小天狗がとりついているが、その赤天狗の長い鼻を別の小天狗がのこぎりで引いている。鼻をのこぎりで引かれてはたまらぬとばかり、赤い小天狗は悶絶しそうな様子である。一見して、鼻切りの連鎖ということがわかる。
大天狗は西洋人らしい顔つきをしているから、暁斎はこの天狗をとおして西洋人たちの横暴さを非難しているのかもしれない。そんなに威張っていると、その長い鼻を切り落としてやるぞ、というような暁斎の意気込みが伝わってくる。
(明治四年ころ 紙本淡彩 26.5×18.5㎝ ピーボディ・エセックス博物館)
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