幽霊図(生首を咥えた幽霊):河鍋暁斎の妖怪画

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これは生首を咥えた幽霊を描いたもの。幽霊はふつう一人で化けて出てくるというのが相場で、このように人間の生首を咥えているのは珍しい。しかもこの幽霊は男である。幽霊と言えば、お岩さんとか番町皿屋敷のお菊さんのように女の幽霊が圧倒的に多く、男の幽霊は非常に珍しい。しかもそれが生首を咥えているとあっては、幽霊と言うよりは妖怪といったほうがいいかもしれない。

この幽霊は、三日月の出ている時刻に葦原の中から現われ出て来たようだ。一応幽霊の格式にしたがって白いかたびらをつけてはいるが、表情のほうは幽霊らしくない。幽霊と言うものはこんなにぎょろ目ではないし、ましてや人間の生首を咥えたりはしないものだ。ただ頭髪が無残に抜け落ちているところは、幽霊らしいと言えなくもない。

暁斎は子供の頃に人間の生首を拾ってきてスケッチしたというから、生首に強いこだわりを持っていたのだろう。そのこだわりが、あえて幽霊に生首を咥えさせたのだろう。暁斎は後に、狼に人間の生首を咥えさせているが、その絵でもやはり月を配していた。月と生首は暁斎の中で混然と一体化していたものと思われる。

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これは幽霊の上体を拡大したもの。生首の表情がよく見えないが、幽霊よりもさらに青白く描かれている。髪型から見るにこの生首は女のものであると知れる。

(明治三年 紙本墨画 100.0×35.3㎝ 福岡市博物館)






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