ガシェ博士の肖像:炎の画家ゴッホ

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ゴッホは人生最後の滞在地オーヴェールで、一人の重要な人物と知り合った。精神科医師のガシェ博士である。弟のテオが、兄の北仏への移動希望を知って、自分の知り合いであったガシェ博士を紹介したのだった。ガシェ博士は親切な人間で、ゴッホを暖かく迎えてくれたばかりか、下宿先まで世話してくれたのだったが、ゴッホは自分で安い下宿を見つけて住み込んだ。

オーヴェールでは、このガシェ博士がゴッホの状態を見守ってくれることになっていたが、ゴッホはガシェ博士自身もひどい精神病を患っているのではないかと疑った。つまりゴッホはガシェ博士に自分の分身を見いだしたようなのである。

そのガシェ博士の肖像をゴッホは、三点描いている。これはそのうちの最初のもので、オーヴェールに到着して間もない、1890年6月の作品とされている。医師ガシェはテーブルに右手をもたれた頬杖をついているポーズをとっているが、これはメランコリーを示す典型的な表現であって、ゴッホがガシェ博士のうちに、自分と同じものを見ていたことをあらわしていると考えられる。テーブルの上には二冊の黄色い本が置かれているが、これらはゴンクール兄弟の小説「マネット・サロモン」と「ジェルミニー・ラセルトゥー」である。

なおガシェ博士は芸術家との交際も広く、セザンヌやピサロとも親しくつきあっていたという。

(1890年6月 カンバスに油彩 66×57cm プライベート・コレクション)







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