カラスの飛ぶ麦畑:炎の画家ゴッホ

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この絵は、1890年の7月に描かれており、ゴッホの遺作といってしかるべき作品である。同じ月の27日にゴッホはピストル自殺を図るのだが、その際に制作中だったのが、この絵であった可能性は高いようだ。ゴッホがピストルを持参したのは、畑の中を飛び回るカラスを追い払うためだと言っていたそうだが、そのカラスはこの画面に描かれているカラスと同じものに違いないのだ。

この絵は、実に暗い印象を与える。空は青黒く夜を思わせるほどだし、一面黄色く色づいた麦畑の上を飛び回るカラスは、不吉さを感じさせる。ゴッホはそのカラスの不吉さに自分の運命を重ねて、反射的に絶望的な気分に陥ったのではないか。

ゴッホの死因にはいまだに不可解なところが多く、自殺した前後のことについて全容が解明されているとは言えない。他殺説もある。他殺にしても、ゴッホが望んで殺されようとした可能性は否定できない。というわけで、ゴッホの最後に関わりの深いこの絵を見ると、さまざまな連想が湧いてくるのである。

麦畑には三本の道がある。そのうち左右の道は画面をはみ出してしまうが、真ん中の一本は画面の奥へと伸びて、やがて見えなくなってしまう。どの道も、ゴッホをどこにも連れて行ってはくれないように見える。そこにゴッホの絶望を読み取ることもできる。その絶望がこの絵を暗いものに見せるのである。

(1890年7月 カンバスに油彩 50.5×100.5cm アムステルダム、国立ゴッホ美術館)






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