豊穣たる熟女たちとラ・コモディタを再訪する

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神田小川町のイタリア料理店ラ・コモディタに小生が豊穣たる熟女たちを連れて行ったのはもう八年も前のことだったが、その折の店の雰囲気とか料理の味がよかったので、是非もう一度いってみたいわ、と熟女たちがいうので、今年の新年会をその店で催した次第だった。

地下鉄小川町の構内で熟女たちと待ち合わせ、店に向かう。店は小川町交差点の東北側の路地を一歩入ったところにある。店内はまだ一人の客もおらずガランとしていた。店員も一人しかいない。これで客のあしらいができるのだろうかと気になったが、店員がいうには、今日は土曜日なので客の入りはほとんど見込めません。ですからお客様たちのほかには誰も来ないかもしれませんと。普段の日にはそこそこ席が埋まるのかい、と聞くと、平日はそこそこに埋まります、ここはサラリーマン相手なので、平日の勤務を終えたサラリーマンが御客のほとんどを占めています。ですから日曜・祭日には休んでいますとのこと。

生ビールで乾杯する。去年は法師温泉でのんびりできて楽しかったです。今年もよろしくお願いしますと熟女たちがいうので、今年はM女が歩かなくてもすむように、近場の温泉でのんびりしようやと提案する。そうですね、また秋ごろにどこかひなびた温泉にでもいきましょう。

アンチ・パスタにはすずきのカルパッチョ、オードブルにはチーズの盛り合わせ、肉料理には牛肉のスープ煮、魚料理には鯛のステーキを頼んだ。どれも味はしっかりしている。料理に舌鼓を打ちながら、生ビールのあとは赤ワインに切り替え、とりとめのない会話を楽しんだ。

小生は昨年の初夏に友達と旅行した際、道の駅で梅の実を買い求め、梅酒を仕込んでおいたのですが、それがいま飲みごろで、毎晩楽しんでいますよ。そういったところが、うちの梅酒はもう二十五年目になりますわとY女がいう。そんなに時間がたってしまっては、もう飲めないのじゃないのかい、というと、いいえ、かえってコクが出ておいしいんですよ、とのこと。

あなたさまの今年のネット年賀状を見ましたけれど、ほのぼのとした感じでなかなかよかったですよ。イノシシの夫婦が三匹の子供と一緒に挨拶してるところなんて、とてもいいわ、そうT女がいうので、言葉だけじゃ他の二人にはよくわからないだろうから、絵を見せてあげなさいよと小生は言って、T女のスマホで小生の当該のサイトを開いてもらい、ほかの二人にも見せてやったのだった。するとM女が絵の中の飛んでいるあひるを指さして、これは何ですのと聞くから、それは小生のトレードマークみたいなものですと答えた。

T女はさらに、小生のホームページから「豊穣たる熟女たち」のサイトも開いて、これまでの四人の交友ぶりを懐かしむのであった。そうだね、皆さんと出会ったのは、小生が六十歳になったばかりのことだから、もうかれこれ十年以上もお付き合いが続いたのですね。そう言って小生もT女に話を合わせたのであった。

註文した料理をひととおり食べ終わる頃合いに、いわしのオーブン焼きとか、ちょっとした小料理を追加注文した。熟女たちはみな満足そうに食べている。ここの料理はおいしいし、料金もリーズナブルなので、是非旦那をつれてきてあげたいわ、とT女がいう。また例のおのろけですか。と小生が冷やかすと、あなたも奥さんにはサービスしているのでしょ、というから、小生のところはあなたのところのように夫婦愛睦むというわけにはいかない。実際いまも冷戦のさなかなのです、というと、この年になって冷戦だなんて、悲しいではありませんか、あなたのほうから降参して、早く奥さんと相睦んだほうがいいですよ、と熟女たちはいっせいにいうのであった。

ところで皆さんは、顔の色艶もよろしいし、髪の毛も立派だ。実際の年よりずっと若々しく見えますよ、とおだてると、やはり働いているせいでしょう。家に閉じこもっていては、こんなふうにはいかないと思います。実はこの三月いっぱいで辞めるつもりでいたのですが、会社の上司からはもっといてくれといわれるし、家にひとりで閉じこもっているのも退屈だと思って、もう一年やることにしたのです、そうT女がいうから、そうだね、体に余裕があるうちは、働くのも悪くない。そういって励ましてやったのだった。

躰も気持ちも若々しいところで、まだまだ生きる喜びにあふれている。こうして四人でおいしいものを食べるのも生きる喜びだし、温泉にのんびりつかるのも生きる喜びです。これにセックスの喜びが加わると言うことがないが、小生の場合には、だんだんと立たなくなって、その生きる喜びに遠ざかりつつある。残念なことです、というと、それはご愁傷様ですと、熟女たちは口を揃えて同情してくれるのであった。かててくわえてM女などは、小生の腹を手でなでながら、こんなに腹が出てしまっては、勢力も弱まりますよと忠告してくれた次第だった。たしかに小生の腹は、大黒様のように膨らんできたのである。

小生がインポの話題を出したところで、T女が小生に向って、あなた、会社の幹部だったKさんのことを覚えていますか、という。ああ、あの愉快な人だろう、度々御馳走をしてもらったからよく覚えているよ、といったところ、あの方離婚をなさったのですって。その理由が振るってるんですよ、あのほうが役に立たなくなったから、もう妻を喜ばせることができないので、自分としては、そんな身で妻を束縛しては気の毒だといって、離婚に応じたそうなのです。そこで小生は、ぼくも同じようなことを考えなければならないのでしょうかね、といったところ、夫婦の絆はあれだけじゃありませんから、せいぜい奥さんを大事にすることですね、と説教をされた次第だった。

料理の仕上げにはパスタとピッツァを食べようと思いますが、味はどうしましょう。どちらか一方をトマト味にして、もう一方を塩味にしたらどうでしょう。たとえばパスタをペペロンチーノにして、ピッツァをトマト味にするとか、そう提案したところが、パスタはトマト味にして、ピッツァはマルゲリータがいいわと熟女たちはいうのだった。

その頃に、若い女性が二人現われたので、新しいお客かと思ったらそうではなく、どうもアルバイトの女性らしい。その彼女らに、店員がパスタを作って食べさせてやっている。もう別の客が来る気配はないので、彼女たちが現れたのは、仕事の応援ではなく、食事が目当てのようだった。実際この夜は、我々のほか客は一人もいないのだった。

パスタとピッツァを食べながら、この初夏にはどこかに日帰りのハイキングを楽しもうと話し合った。川越などはどうだい。古い街並みを散策しながら、新録を楽しむ。できたら日帰り温泉にでも立ち寄って英気を養う、なんてのはどうでしょう。いいですわ、是非そうしましょう、と意見が一致したところで、最後の仕上げに杏子のワイン煮とアイスクリームをデザートにして食べたのであった。

こんな具合で今宵は、久しぶりに再訪したイタリアレストラン、ラ・コモディタにて、気の置けない一夜を過ごしたのでした。





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