民衆を導く自由の女神:ドラクロアの世界

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「民衆を導く自由の女神(La Liberté guidant le peuple)」は、ドラクロアの代表作たるのみならず、ロマン主義絵画あるいは世界の美術史を代表する作品といってよい。歴史の教科書の常連ともなっている。

1830年7月に勃発したいわゆる七月革命に取材した作品である。わずか三日間で鎮圧されたために、三日革命ともよばれるこの革命は、シャルル十世の絶対主義的反動政治を打倒し、ルイ・フィリップの自由主義的王政(七月王政)への道を開いた。

ドラクロアは、ギリシャ独立戦争に取材した作品を手がけており、政治意識が高かったようにも見えるが、本人は政治的な意図にもとづいてこの作品を描いたのではなく、ルポルタージュ的な記録性を重んじて描いたのだと言っている。以下は彼自身の言葉だ。

「私は現代的な主題を描くことにした。バリケードだ・・・たとえ私が祖国のために戦わなかったとしても、少なくとも私は祖国のために描くことになるだろう」

この言葉の通り、この作品はドラクロアの祖国フランスの生んだドキュメンタリー芸術の傑作となった。

累々と横たわる屍を越えて、フランス共和制のシンボル三色旗をかざしながら、自由の女神が人々を鼓舞している。胸をあらわにしつつ、左手には銃を握っている。その姿に鼓舞されて、民衆は戦いに参加する。そうした躍動感がひしひしと伝わってくる作品である。

ドラクロアはこの作品を、革命終了後ほどなくして完成させた。実際に現場を見て描いたのではないだろう。ギリシャ独立戦争をモチーフにした作品も、かれの想像のうえに描かれていた。

(1930年 カンバスに油彩 259×325cm パリ、ルーヴル美術館)






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