鷺池平九郎(魁題百撰相):月岡芳年の血みどろ絵

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「魁題百撰相」は、月岡芳年の「血みどろ絵」の代表作だ。明治元年から翌年にかけて、六十五図が刊行された。これらはいずれも歴史上の人物にこと寄せてはいるが、実は上野戦争における彰義隊の戦いぶりを描いたものとされる。彰義隊の各兵士の戦いぶりを、歴史上の人物の戦いぶりにこと寄せて描いたというわけだ。したがって、芳年の視線は官軍側ではなく、彰義隊側に大きく傾いているように見える。

芳年は、この連作の制作に先立って、弟子を連れて上野の戦場跡に赴き、死んだ兵士たちを丹念にスケッチしたという。その現場の迫力というべきものが、この一連の作品にはそのままこもっている。したがってこの連作は、どの一点をとっても、すさまじい迫力を以て見る者に迫ってくる。

これは、「鷺池平九郎」と題する一点。鷺池平九郎は、楠正成に仕えた武将ということになっているが、実在の人物ではなかったらしい。ただ講談はじめ語り物の世界においては、楠正成の戦いぶりを彩る人物として人気があった。その平九郎にことよせて、おそらく彰義隊の一兵士の戦いぶりを描いたのがこの作品だということのようだ。芳年は、「和漢百物語」においても、平九郎をモチーフに取り上げている。

この絵の中の平九郎は、楠の一字をあしらった上っ張りを片方の肩に羽織り、左手に官軍側と思われる兵士の生首を抱えている。その横顔からは、手柄をたてたことへの充実感を読みとることができる。

(明治元年<1868> 大判)







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