朧月夜熊坂(月百姿):月岡芳年

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「月百姿」は、明治十八年から二十五年にかけて制作された芳年最後の大作シリーズで、全部で百図。芳年の死後に画帖の形でも出版された。まさに芳年の遺作と言ってもよい作品だ。テーマは月にことよせながら、和漢の物語や詩歌などを題材にしたもので、すべて過去のことがらを取り上げている。
「朧月夜熊坂」と題したこの作品は、謡曲「熊坂」に取材したもの。旅の僧が美濃の赤坂に差し掛かった時一人の僧に出会い、庵に案内される。そこで転寝をしている間に庵は消え、不審に思った旅の僧が行きがかりの者にきくと、ここは盗賊熊坂長範が討たれたところだと言う。さては先ほどの僧は熊坂の亡霊かと思うところに、その亡霊が現れて自分の討たれた経緯を語る。

熊坂は、山中通りがかった金売吉次一行を襲ったが、かえって牛若丸に打たれてしまった。ついては自分の霊を鎮めるためにお経をあげてくだされ、そう言って熊坂は懇願する。それに応えて旅の僧がお経をあげると、熊坂の霊が成仏するというような内容だ。

この図柄は、熊坂が長刀を持って吉次一行の前に現われたところを描いたもの。熊坂の表情がなんとも印象的だ。

(明治廿年<1887> 大判錦絵)





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