散歩に出かける子どもたち:ルノワールの世界

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1876年に第二回目の印象派展が行われ、ルノワールは数点の作品を出展した。「散歩に出かける子どもたち(La promenade)」と題した1874年の作品もそれに含まれていた。この作品は、当時金持ちの依頼で肖像画を描くことが多かったルノワールが、やはり依頼を受けて描いた作品だと思われるが、詳細はわからない。

印象派の評判は相変わらず悪かったが、それでも風刺目的とはいえ、美術批評家たちが見にやって来て、勝手なことを書きたてた。ルノワールは、サロンにも出展していることもあり、モネやほかの画家程手厳しいことは書かれなかったが、それでもひどいことを書きたてるものはいた。この作品も、ある批評家によって酷評された。

その酷評の理由というのは、デッサンが曖昧なために、輪郭が明確ではなく、全体に霧がかかっているように見えるというものだった。その霧の中から六つの点が見えるが、近づいてよく見ると、これはドロップではなく人間の目玉であった、というようなふざけた批評もあった。

ルノワールが、わざと輪郭をぼかしたのには、それなりの事情があった。かれは、伝統的な絵画のように、輪郭を線によって強調する方法はよく知っていたが、それでは独創的な絵は描けないと思い、わざと輪郭をぼかす描き方をした。そうした描き方は、自然の中で光を意識しながら描くことには十分な効果を発揮した。印象派の特徴として光へのこだわりがあげられるが、ルノワールはそのこだわりを、線ではなく色彩のコントラストによって表現する方法を追求していたのだった。この作品は、その追求の一プロセスを語るものである。

おめかしした二人の少女が、母親に連れられて公園を散歩する光景を、この絵は描いている。背景には何人かの人々がいて、そのうちには母子の方を見ているものもいるが、その姿は明確には表現されておらず、ぼやけた描き方をされている。ぼやけているのは、背景全体についても言えることで、ルノワールはこの絵の中で、全体としてぼやけた背景の中から、三人の母子をメリハリをつけて描くことで、背景から飛び出て見えるような配慮をしているのである。

(1874年 カンバスに油彩 168×104㎝ ニューヨーク、フリック・コレクション)







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