マルタとマリアの家のキリスト:ベラスケスの世界

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「マルタとマリアの家のキリスト」と題するこの絵は、前景に料理する二人の女を、後景に三人の人物を配した複合的な画面になっている。絵のタイトルは、後景の図柄を説明したもの。この図柄が、絵であるのか、窓を通した外部の光景なのか、それとも後の「ラス・メニーナス」を思わせる鏡の中の像なのか、断定的なことは言えない。

それはともかく、後景の図柄は宗教的なテーマをあらわしている。このように、ボデゴンの枠組みのなかに宗教的なテーマを併せ持たせるのを、通常のボデゴンと区別して、聖なるボデゴンと呼ぶ。ベラスケスにはこのほかにもうひとつの聖なるボデゴンとして「エマオでの夕食」がある。そちらは、キリストが二人の男と共に食事をする光景が描かれている。

マルタとマリアの家のキリストの逸話は、福音書にもとづく。イエスがある村で、マルタとマリアの姉妹の家に招かれた際に、マリアはイエスをもてなすためにせわしなく働く一方、マルタのほうはイエスの足元に跪いてイエスの話を聞いていた。そこでマルタが、マリアにも働くように不満を言うと、イエスは「マリアはよいほうを選んだのだ」と言った、とルカ伝にある。

この絵はその様子を後景で描いているのである。左側に椅子に腰かけたイエスがおり、その足元にマリアが跪く一方、マルタはマリアの背後に立って、なにやらイエスに呼びかけている。

前景には、調理にいそしむ若い女と、その背後から呼びかけている老女が描かれている。老女が差し出した指は、後景のほうを向いているが、若い女はそれを無視して、こちら側、つまり観客の方を向いている。何やら語りかけたい様子に見える。そこから、絵に動きのようなものが生じている。

光線の処理と強い明暗対比は、「卵を料理する老女と少年」と共通する。

(1619年頃 カンバスに油彩 60×103.5㎝ ロンドン、ナショナル・ギャラリー)






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