フラガのフェリペ四世:ベラスケスの世界

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ベラスケスは1643年の1月に、王室侍従代に任命される。王の側近中の側近の職であり、ベラスケスが長年願っていたポストである。このポストは多忙を極め、そのために絵画制作のための時間をさかれることになった。1640年代半ば以降、ベラスケスの作品は極端に少なくなるのである。

1640年代前半のスペインは、フランスとの間で戦争をしていた。そのためフェリペ四世は、1642年4月から12月までと、1644年2月から夏にかけて、アラゴン王国の前線に遠征した。この二度の遠征とも、ベラスケスは側近として随従した。遠征の主な目的は、リエイダの要塞を陥落させることだった。要塞は二度目の遠征の際に陥落させた。その際の戦勝を祝って制作されたのが、「フラガのフェリペ四世」である。

フェリペ四世は、このフラガを総司令部として、そこに三か月滞在した。この絵は、リエイダ陥落を記念して、当地で描かれたものである。わずか三日ポーズをとっただけで完成させたというから、速筆だったわけである。

フェリペ四世は、右手で指揮棒を握り、左手で軍帽を持って、斜めに構えた姿勢からこちらを見つめている。その表情には、戦勝に得意になっている雰囲気に交じって、なにかしら憂鬱を感じさせるものがある。一時的に戦果を上げたとはいえ、スペイン王国は、長期的な凋落に向っていたのである。

絵は完成後に、王妃イサベルに見せるためにマドリードに送られた。そのイサベルは同年のうちに死ぬのである。

(1644年 カンバスに油彩 129.9×99.4㎝ ニューヨーク、フリック・コレクション)







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