ナヴァーリヌイは第二のエリツィンになれるか

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プーチンの宿敵といわれるアレクセイ・ナヴァーリヌイが、あやうく毒殺されかかって一命をとりとめたことは、世界中を賑わせた。そのかれが、ドイツでの治療を終えてロシアに返った途端に逮捕されたというので、世界中で非難が高まる一方、ロシア国内では各地で釈放を求めるデモが繰り広げられ、数千人が拘束されたという。ロシアとしては近年にない民衆の政権批判の動きだ。この動きは、プーチン体制に穴をあけることにつながるのか。

ロシアには強大な権力が民衆によって打倒された歴史がある。1917年のロシア革命と1991年の共産党体制崩壊だ。共産党体制の崩壊にはエリツィンが巨大な役割を果たした。クーデタを図る旧勢力に対して、エリツィンが戦車の上から演説し、民衆に立ちあがるよう呼び掛けたことは歴史に残る逸話だ。その逸話を、形をかえてであれ、ナヴァーリヌイは繰り返すことができるだろうか。

ナヴァーリヌイがプーチン政権を打倒するためには、いくつかハードルがある。もっとも重要なのは、政権に対する民衆の反発が沸点に達していることだ。ロシア革命の際には、第一次大戦の影響もあって、民衆の暮らしは絶望的にひどくなり、ツァーリへの反感が頂点に達していた。1991年にも、共産党政権への民衆の反感は頂点に達していた。どちらの場合にも、民衆の日々の暮らしが脅かされていたという事情がある。

今日のロシアはどうだろうか。欧米諸国に比べれば決して豊かとはいえないが、日々の暮らしに困るほど貧しいというわけではない。民衆はたしかにプーチンに愛想をつかしているが、プーチンの下では生きていけないと思うほど、プーチンを激しく憎んでいるわけでもなさそうだ。ナヴァーリヌイはいまのところ、プーチンが民衆の暮しを破壊しているという理由では、プーチンを攻撃することはない。かれの腐敗を理由に攻撃している。その腐敗の最たるものは、金をめぐる疑惑だ。プーチンの銭ゲバぶりは、民衆周知のことで、最近明らかにされた城のような豪邸はその一例だ。

しかしロシアの民衆は、自分に直接関係のないことで、政権の打倒に立ちあがることはないだろう。プーチンが目に余るような悪事を働けば、それに対して非難はするだろうが、命をかけて政権打倒に立ちあがるまでには至らないだろう。プーチンが自分の政治生命について楽観的に見えるのは、そんな民衆の本音をよくわきまえているからだろう。

こんな具合だから、ナヴァーリヌイが第二のエリツィンになれるかどうかは、かなり悲観的に見える。





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