旅情:デヴィッド・リーン

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アメリカの田舎者がヨーロッパの古都に「海外旅行」し、旅の恥の掛け捨てとばかり、さまざまな愉快な体験をするという趣向の映画が、戦後数多く作られた。「パリのアメリカ人」は、その典型的なものである。これは、第二次大戦中にヨーロッパ戦線で戦った米兵とその周囲の人たちが、戦争の思い出を含めて、ヨーロッパへのノスタルジーを掻き立てられたためであろうと思われる。

デヴィッド・リーンの1955年の映画「旅情(Summertime)」も、そうしたものの一つである。リーンはイギリス人だが、アメリカ人の海外旅行をテーマにした映画を作ったわけだ。おそらくこの種の映画の需要が多いことをあてこんだのであろう。

原題にあるとおり、夏休みを利用してイタリアのヴェニスに「海外旅行」したアメリカの田舎者の中年女の話である。この中年女は、旅を楽しむついでにロマンスもしてみたいと思っている。そんな彼女の前に、魅力的なイタリア男が現われて、彼女のロマンス熱に応えてくれる。なんだかんだあった挙句、彼女はゆきずりの恋を楽しんで、アメリカに帰っていくのである。旅には恥のかき捨てがつきものだが、彼女の場合にはセックスのやり捨てというわけだ。

その彼女を、大女優の名声高いキャサリン・ヘップバーンが演じ、その恋の相手を、イタリア人俳優ロッサノ・ブラッツィが演じている。ロッサノはともかく、キャサリンの演技はすばらしい。いかにもロマンスに飢えていながら、それを表情に出すまいと努力する。男から安っぽく見られたくないのだ。しかし、なにしろウブなアメリカ女のこと、安っぽい地が出てしまうのだ。そんな彼女を、ブラッツィ演じるイタリア男がカモにしようとする。ブラッツィは、妻と仲たがい中で、独り寝の夜をもてあましていたのだ。

キャサリンが、運河に転落してずぶぬれになるシーンがある。彼女はそのことで感染症にかかったそうだ。ヴェネツィアの運河は、ごみ捨て場としても使われていて、不潔きわまりないという。そんなところに彼女を漬けたリーンの責任は大きいと非難されたそうだ。

時折流されるテーマ音楽がなかなかよい。






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