二人の盗賊の間のキリスト:ドラクロアの世界

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ドラクロアは宗教画も多く手がけた。教会から注文を受けたこともあるし、またブルボン宮殿など壮大な建築物を装飾する作品も手がけた。「二人の盗賊の間のキリスト(Le christ entre les deux larrons)」と題するこの絵は、ドラクロアの宗教画を代表する作品である。

福音書から、ゴルゴタの丘で十字架に貼り付けられたキリストをモチーフに選んだ。このモチーフは、宗教画を手がけたことのある殆どの画家が取り上げたもので、キリスト教徒にとっては、非常に馴染みの深いものである。

福音書によれば、ゴルゴタの丘に連行されたキリストは、二人の盗賊と共に磔刑に処せられた。その際、三つの十字架のうちの真ん中にキリストが貼り付けられたということになっている。その処刑の場には、聖母マリアとマグダラのマリアのほか、キリストの第一の使徒も立ち会ったという。第一の使徒とはヨハネ伝の作者聖ヨハネのことである。

ドラクロアはこの作品を、ルーベンスの「十字架上のキリスト」を強く意識して描いたと言われる。ルーベンスのキリストは単身だが、聖母マリアと聖ヨハネが悲しみに打ちひしがれ、マグダラのマリアはキリストの十字架に身を投げ出している。そういう部分をドラクロアは、この絵にも取り入れているのである。

この絵は、1835年のサロンに出展され、大きな評判を呼んだ。とりわけ豊かな色使いに賞賛が集まった。寒色系の暗色を背景にして、暖色系で塗られた人物像が浮かび上がって見えるところは、バロック的な演劇性を感じさせる。

(1835年 カンバスに油彩 182×135cm ヴァンヌ私立美術館)






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