強権中国の野望

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「強権中国の野望」とは刺激的な言葉だが、これは雑誌「中央公論」最近号の特集のタイトルである。文字通り、中国を強権国家と決め受け、それへの警戒心と対抗心をむき出しにした記事が多い。比較的穏健な中央公論でさえ、中国をこのように罵倒するのであるから、大衆向けの論調がどのようなものか、推して知るべしだろう。

バイデン政権が対中強硬姿勢を押し出し、それに日本の菅政権も足並みを揃えたことで、日本の反中言説は勢いを得たと言ってよい。そうした時代の空気が、中央公論のこの特集にあらわれたわけだ。寄稿された意見は、だいたいが対米協調と対中攻撃に染められているが、なかには冷静な議論もある。そういう意見は、中国をよく理解しないでは、日本の国益に沿った判断ができない、という至極当たり前の考えに裏付けられている。

中国が、欧米とは異なる価値観をもっていることは明かである。バイデンはそれをけしからぬことに思い、力でねじふせて自分の思い通りにしようとしているが、それでは共栄の関係を築くことはできない。そこで中国とどのように付き合うかが問題となるが、やはり対決一点張りではうまくいかないだろう。

かといって、理屈で説得しようとするのも、そもそもその理屈が同じ論理を共有していなければ、成功しない。中国は、伝統的に華夷思想をベースにした論理を形成してきており、世界を、中国を中心にして円環的に拡がるものと思念している。だから中国はあらゆる点で世界の原動力だと考え、日本を含めた夷狄に対して優越感を抱いている。したがってその夷狄から説教されるなどとんでもないということになる。

その一方で、中国はかならずしも攻撃的ではない。台湾やウィグルで中国がやっていることは、褒められたことではないが、中国にしては内政問題としての位置づけであり、対外的な侵略という意識はもっていない。尖閣や南シナ海での行動は、中国にとっては自分の領土・領海を守るためのものだと意識している。そういう中国の意識を無視して、いたずらに高圧的な説教をしても効果はないだろう。

中国は、いまやアメリカに迫ろうとする大国であり、おそらく2020年代にはアメリカを抜いて世界一の経済力を持つようになるだろう。そういう大国としての立場になるわけだから、大国らしく振舞わねばならない。ところが中国は、様々な部面で欧米諸国と摩擦を起こしている。それは、中国への欧米の警戒心の現われでもあるが、中国自身のやり方も稚拙である。世界一の大国になるからには、いままでのようなやり方では通じないだろう。それをわからせなければならない。

バイデン政権の中国叩きには、不純な動機も感じる。自分の意向にまつろわぬ中国の態度に苛立って、なんとか力でねじ伏せようとする意図がミエミエである。そんなわけだから、人権とか普遍的価値観などという言葉も、中国叩きを合理化するための口実のように聞こえて来る。このままだと。バイデン政権は大規模な対中十字軍の結成を目指す勢いである。

その対中十字軍に、日本も加盟するべきなのか。それはよく考えた方がよい。日本の最近の政権は対米従属を深化させるあまり、自主的な外交能力がほとんど見られなくなった。その象徴がコロナ外交である。日本は、アジア諸国をリードする立場にあるにかかわらず、コロナでは何等の貢献もできなかった。そんな日本をアジア諸国は冷めた目で見ている。シンガポールの研究機関が行った最近のアジア各国の住民意識調査によれば、日本は政治的・経済的に影響力のある国として、「その他」の国に分類されたという。これは、アジアにおける日本の存在感が無くなっていることを意味しており、日本にとっては衝撃的と言ってもよい。それほど日本の外交力は後退しているわけである。

中国を話題にしながら、日本を憂える話になってしまった。





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