黄粱一炊図:渡辺崋山の絶筆

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「黄粱一炊図」は、崋山の絶筆とされる作品。中国の故事「邯鄲の夢」に取材している。邯鄲の夢は、黄粱一炊ともいわれ、黄粱が炊き上がるまでの短い時間に、盧生という青年が見た長い夢のことをいう。その夢の中では、実に多くの出来事があり、非常に長い時間が過ぎたように感じられたが、実は黄粱が炊き上がるまでの非常に短い時間だった。人の生涯とは、それに似てはかないものだという寓意を込めている。

その寓意にことよせて崋山は、自分の人生も、邯鄲の夢のようにはかないものだったと言いたいようである。

深山に抱かれた小屋のなかで、老人と青年とが休んでいる。青年のほうは台の上に横になり、午睡に耽っているようである。隣の部屋では、大なべが火にかけられている。おそらく黄粱を炊いているのであろう。この青年に崋山は、己を重ね合わせているようだ。

崋山は、天保十二年十月十日の深夜に、切腹して自決した。それに先立ち四通の遺書を残した。長男立、弟助右ヱ門、門人金子武四郎、椿椿山宛てである。長男立へは、自分を不忠不孝之父と称しながら、祖母(崋山の母)に孝行をつくすよう求めている。

(天保十二年 絹本着色 146.1×71.5㎝ 個人蔵 重美)







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