ランジェ公爵夫人:ジャック・リヴェット

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ジャック・リヴェットの2007年の映画「ランジェ公爵夫人(Ne touchez pas la hache)」は、バルザックの同名の小説(La Duchesse de Langeais)を映画化した作品である。もっともフランス語の映画タイトルは「斧に触るな」という意味である。映画の一シーンでこの言葉が出てくる。それが映画のクライマックスになっているので、タイトルにしたのだろう。邦訳はバルザックの原作をそのまま使ったものだ。

小生がバルザックを読んだのは高校生のときで、図書館から借りてきた「谷間の百合」とか「絶対の探求」といったものを読んだ。これらの小説には性的なイメージは弱く、また小生自身に性的関心が薄かったこともあって、小生はバルザックを性に無関心な潔癖なタイプと思い込んでいた。だがこの映画を見ると、それが原作に忠実だと前提した上で、バルザックもセックスを描くのが好きだったと、改めて思わされるのである。

フランス文学は、ヴィヨンの時代からセックスを専ら描いてきたので、フランス文学の巨匠と呼ばれるバルザックが、性に無関心なわけはないのである。そんな当たり前のことを、この映画は気づかせてくれる。

舞台は1823年のマジョルカ島。1823年といえば、ナポレオンが没落して王政復古の時代である。その時代にあって、王党派の将軍として名声をはせた軍人が、一人の貴婦人に恋をした。その恋は不幸な結末を迎えたのだが、その一部始終を過去に遡って回想するという構成になっている。

王政復古の時代だから、貴族たちが地盤回復に成功して、派手な生活を楽しんでいる。映画の女主人公ランジェ公爵夫人も、そうした派手な生活を楽しんでいる一人だ。その彼女が時代の英雄と評価されている軍人モンリボー侯爵に一目惚れする。彼女は、夫を持つ身ながら、世間の目をあざ笑うかのようにモンリボーとの恋のやり取りをする。彼女がモンリボーを手玉に取っている形だ。それは彼女が欲求不満だからというふうに伝わってくる。なにしろ映画の中では、居るべき亭主は一度も顔を見せないで、妻は自分の家で堂々と男を迎えるのだ。この辺はやはり、フランスの男女関係がそのまま現われていると解釈していいだろう。

ランジェ公爵夫人に持て遊ばれてイライラしたモンリボー侯爵はついにキレル。彼女を誘拐して、自分に対する仕打ちを非難するのだ。ところが意外なことに、彼女は自分を激しく非難するモンリボーに激しい恋心を感じるのだ。それに対してモンリボーは意地を張る。これまでさんざん弄ばれて生きたので、いまさら素直になれないのだ。

これから悲劇が始まる。彼女はパリを去っていづくかへ身を隠してしまう。そんな彼女の行方を求めてモンリボーはヨーロッパ中をさまよう。そのあげくに、マジョリカ島の修道院にいることを突き止めて彼女に会いに行く。修道院では最初会わせないと言ったが、モンリボーに脅迫されて会わせることにする。しかし彼女らが恋人関係にあることを知った修道院は、以後会わせないと宣言する。

切羽詰ったモンリボーは、仲間たちを動員して、彼女を誘拐しようとする。そして彼女の居る部屋まで迫ったのだが、その彼女は既に死の床に付していた。絶望のあまり自殺したのであろう。

こんな具合に、典型的なフランスの男女関係がテーマの映画である。その男女関係が劇的な要素で彩られているのは、作家としてのバルザックのこだわりであろう。






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