セリーヌとジュリーは舟でゆく:ジャック・リヴェット

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ジャック・リヴェットは、ヌーヴェルヴァーグ以降のフランス映画を代表する監督の一人である。映画の常識を無視した作品が多く、前世紀中にはいまひとつ評価が低かったが、近年その斬新さが高く評価されている。1974年の作品「セリーヌとジュリーは舟でゆく(Céline et Julie vont en bateau)」は、そうした斬新さが遺憾なく発揮されたものである。

大人のためのファンタジー映画といったところか。魔術好きの女性セリーヌと、実際のマジシャンである女性ジュリーとが、現実世界とパラレルワールドを往復して、奇想天外な出来事を体験するというような映画である。ファンタスティックな出来事が軽快な音楽に乗って繰り広げられる。だから見ていて楽しい。三時間を越える大作だが、時間の長さを感じさせない。

二人はひょんなことから知り合う。とくに深いわけがあるわけではない。セリーヌがジュリーを見た瞬間に好きになってしまうのだ。そこで二人の間で追いかけっこが繰り広げられたあげくに、脚に怪我をしたジュリーがセリーヌのアパートに現われる。そこから二人の共同生活が始まる。ジュリーが怪我をしたのは、バイト先の主人に乱暴されたからだというので、セリーヌはそのバイト先の家に出かけていく。その家は、「逆さリンゴ通り(Rue du Nadir aux Pommes)」という不思議な名前のところにあった。そこが、現実世界とパラレルワールドの境目なのである。

そのパラレルワールドでの出来事が、この映画の主な部分。それと平行して、現実世界では、セリーヌがジュリーの恋人とデートしたり、ジュリーがキャバレーでマジックを披露したり、さまざまなサブプロットが展開され、それはそれでなかなか見所がある。

パラレルワールドでは、小さな女の子を囲んで、その父親とか、子どもの死んだ母親の姉とか、父親に色目を使う女とかが出てくる。それに看護婦も出てくるのだが、それがどういうわけか、セリーヌとジュリーのどちらか、あるいは双方が扮するというわけなのだ。看護婦の役割は、小さな女の子の世話を見るということらしい。その女の子は、どうも邪魔扱いされているらしく、命に危険が迫っているというメッセージが伝わってくる。セリーヌとジュリーは、最後にこの女の子を危機から救い出し、現実世界に連れてくるのである。その現実世界で、彼女らは女の子を舟に乗せて、川遊びに興じるというわけである。

パラレルワールドの中での出来事は、時間に縛られないで、自由自在に展開する。同じことが何度もフラッシュバックするし、出来事相互にあまり脈絡がない。しかし荒唐無稽というわけでもない。一応筋は通っているのである。そんな具合に、リアリティとファンタジーとが交じり合ったところに、この映画の魅力がある。不思議な映画である。





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