EUのノーベル平和賞受賞はお笑い草か

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今年(2012)のノーベル平和賞をEUが受賞したことについて、世界中で論評が行きかっている。中にはバローゾEU委員長と共に素直に喜ぶ者もいれば、お笑い草だと言ってけなす者もいる。けなす理由の中で最も強力なのは、タイミングが悪いというものだ。数年前までなら、まだ素直に受け取られたかもしれない。しかし今更なんだ、というわけである。

このニュースは、ノーベル平和賞選考委員会のヤーグランド会長が発表する数時間前にリークされ、発表時点では喧々諤々たる議論がすでに巻き起こっていた。だからヤーグランド氏が説明する受賞理由も、まともに声が届かないといった有様だった。

その受賞理由とは、ヨーロッパ諸国の対立(とりわけドイツとフランスとの)を乗り越え、ヨーロッパに平和をもたらしたということだった。またベルリンの壁崩壊後の世界にあって、中東ヨーロッパ諸国のヨーロッパ社会への統合に偉大な役割を果たした。今後は、バルカン諸国の統合をも視野に入れており、ヨーロッパ全体の統合という壮大な計画を実現しようとしている。世界平和に対する貢献には計り知れないものがある、というわけである。

どの理由にもみな一理ある。たしかにEUがヨーロッパ統合に果した役割には計り知れない意義がある、とシニカルな人々も認めるところだ。しかし何故今なのか、とそういう人たちは聞き返す。ドイツとフランスの和解はもう何年も前になされたことだし、ベルリンの壁が崩壊してから20年以上もたっている。

いまEUで問題になっているのは、域内の宥和ではなく対立だ。ドイツとギリシャとは互いにいがみあってしるし、フランスはドイツの健全財政路線を批判して、成長のことをもっと考えろと言っている。

つまり、EU内での持てる国と持たざる国との対立が尖鋭化してきている。そんな時に過去の平和の達成を云々することにどんな意義があるというのか、肝心なのは未来をどうするかではないか、とシニカルな人たちは批判するわけなのだ。

ノーベル平和賞の賞金くらいでは、持たざる国の財政危機には何の役にも立たない。そんなものをあてにするくらいなら、もっと地に足がついた努力をしろ、というのが批判派の批判の要点だ。

それに対して今回の受賞を評価する人々は、今や域内の対立が表面化している時だからこそ、ノーベル平和賞の受賞は強いインパクトを持つのだといっている。そういう人たちは、対立しあう国々が、受賞をきっかけにして頭を冷やし、未来に向けて健全な関係を築いていけるように努力すべきだというのである。

ノーベル平和賞は、つねに政治的な波紋を投げかけてきたが、今回もまた例外ではないらしい。(写真はAPから)





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